新入社員は深夜23時から“劇”の練習!? 新人研修や劇の練習にも残業代を請求できる
研修合宿後、通常勤務が始まったが、最初から「終電が定時」状態だった。そんな彼の業務日報を見ると、深夜23時台に「劇」という記載があった。何なのか聞くと、「この会社では、社員旅行で劇を披露するのが新入社員の役目で、この時間に新人が集まって劇の練習をしてました」ということであった。彼は、勤務半年足らずのころの深夜勤務中、仕事をしながらコンビニで買った夜食のソーセージをかじっていたら、その脂が飛び、書類にかかったのを見て、ふと「俺一体何やってるんだろ」と思い、翌日退職届を出したそうだ。
私は、彼の依頼を受け、研修合宿中につき、3食の時間と1時間の睡眠時間を除く1日20時間を労働時間とし、その後については「劇の練習」時間も全て労働時間に含める内容で、この会社に未払残業代を請求する内容証明を送った。ちなみに、新人研修の時間は「働いているのではなくて、教育を受けているだけだ」という理屈で、「劇の練習」の時間は「仕事と関係なく、本人が勝手にやっていただけだ」という理屈で、いかにも会社側から「そんなものは労働時間ではない」との反論がありそうなところである。しかし、労働基準法上の「労働時間」とは、「労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間」をいい、「指揮命令下に置かれている」といえるか否かは、会社がどう考えているかに関係なく、客観的に決まるものであるというのが、確定した最高裁判決の見解である。なので、新人研修の時間は当然「労働時間」になる。また、「劇の練習」についても、日報に「劇の練習時間を守れなかった」などなど、上司への報告記載があったりしたことから、上司の指揮命令下にあった時間と十分にいえる証拠が残っていた。
内容証明を送った後、会社側代理人である弁護士と面会することになった。その会社側代理人も、当初はこちらの述べる事実につき、にわかには信じられない様子であった。しかしその後、会社側は、「寝させない新人研修」の時間も「劇の練習」時間も含め、こちらの主張する労働時間をほぼ全て認める内容で和解案を出し、この件は早期和解で解決することとなった。