トランプ的価値観に抗うマイノリティたちを描いたデル・トロ監督が「普通とは何か」
映画は、前半でイライザと半魚人の恋の芽生えを描き、そして、映画の後半では、軍上層部の命令に従い解剖を断行しようとするエリート軍人ストリックランド(マイケル・シャノン)と、半魚人を海に返して逃がそうとするイライザたちの戦いが描かれている。
ストリックランドはマッチョイズムの権化でマイノリティに属する人々を人間扱いしない「トランプ的価値観」を象徴する人物として描かれる一方、イライザをサポートする人々は、皆がなんらかのかたちのマイノリティとして描かれる。イライザの同居人であるジャイルズ(リチャード・ジェンキンス)はアルコール依存症で会社をクビになったゲイの老人、イライザの親友ゼルダ(オクタヴィア・スペンサー)は黒人中年女性の清掃員、半魚人を救うために国を裏切るホフステトラー博士(マイケル・スタールバーグ)はソビエト連邦のスパイだ。
映画パンフレットに掲載された町山智浩氏によるインタビューのなかでギレルモ・デル・トロ監督は、「イライザの周りはみんな「The Others(非主流派)」だ。これは、そんな世間の隅っこに忘れられた人々が、研究施設に囚われたアマゾンの半魚人を救いだす話なんだよ」と語り、そういったキャラクター設計には確固たる意味があると説明している。
そして、同インタビューのなかで監督は、『シェイプ・オブ・ウォーター』という物語をこのようにまとめていた。
「53歳になったいまでも、僕にはなにが“普通”かわからない。“普通”は恐ろしいと思う。だって完璧に“普通”な人なんていないんだから。モンスターは、完璧であることに迫害された聖人なんだ。人間は誰もがグレーゾーンにいるのに、白か黒かはっきりしろと迫られるのは恐怖だ」
下馬評では『シェイプ・オブ・ウォーター』と主要部門を争うことになるのではないかと目され、フランシス・マクドーマンドが主演女優賞、サム・ロックウェルが助演男優賞を受賞した『スリー・ビルボード』もまた、米国ミズーリ州の片田舎の街を舞台に、警察権力の腐敗や、有色人種差別とLGBT差別の問題に踏み込んだ物語だった。
また、黒人としては初めてアカデミー脚本賞を受賞したジョーダン・ピールの『ゲット・アウト』は黒人差別問題に触れたもので、ジェームズ・アイヴォリーが脚色賞を受賞した『君の名前で僕を呼んで』は同性愛を扱った物語。それぞれアプローチは違うが、今回のアカデミー賞で主要部門を受賞した作品はどれも、なんらかのかたちで、現在の社会事象に対してのリアクションを試みた作品だ。
それは受賞作品だけではない。作品賞にノミネートされ、主演女優賞にもメリル・ストリープがノミネートされていたもののオスカーは逃した、スティーブン・スピルバーグ監督作『ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書』もそのひとつだ。