反戦の俳句を詠んだ金子兜太の師匠は特高に検挙され激しい拷問に
1940年に新興俳句弾圧事件というものが起こっている。これは、反戦をテーマとした俳句を詠んでいた急進的な俳人と、それを載せた俳句誌が治安維持法で続々と検挙された事件である。
このとき、金子氏が師事していた嶋田青峰氏も検挙された。嶋田氏は獄中で喀血したため仮釈放となったが、同じように特高警察に引っ張られていった先輩は尋常ではない拷問を受けている。「週刊朝日」(朝日新聞出版)2015年3月6日号では、そのときのことを振り返り、「先輩が特高に持っていかれて、1ヵ月ほど姿を見せないことがあった。それが青白い顔で現れて、黙って私に手を見せた。指の爪を全部はがされる拷問を受けていて、「お前、俺みたいなことにはなるな」と言われたことを、いまでも覚えています」と語っている。
共謀罪が強行採決されてしまったいまとなっては、新興俳句弾圧事件のような事例も十分起こり得ることである。
とはいえ、金子氏はまだかろうじて希望を見ている。それは民衆の力だ。前掲「FRIDAY」では、とくに女性たちの力に感銘を受けながら、「安保法案反対のデモには女性がたくさん参加しているでしょう。強くなった女性の姿に一筋の光明を見る思いです。戦争のような大きな流れに飲み込まれると、個人の力で抗うことはできなくなる。一度戦争を始めたら簡単には引き返せません。今こそ大事な時だということを、多くの人に考えてほしいと思うのです」と語っている。権力に対しアンチテーゼを唱えるようなことを言いづらい空気にはなっているが、止めるならいましかない、いまならばまだなんとかなる。だからこそ、平和のために行動を起こしている市民たちに金子氏は希望を見るのだ。
水木しげる氏、野坂昭如氏、大橋巨泉氏、愛川欽也氏、菅原文太氏など、本当の「戦争」を体験し、それゆえに強く平和を訴えてきた世代が次々と鬼籍に入りつつある。
金子氏は〈サーフィンの若者徴兵を知らぬ〉という俳句を詠んでいるのだが、しかし、それでも彼らの残した言葉からたくさんのものを学ぶことはできる。
現在、安倍政権は、対話の動きを無視し北朝鮮危機を煽り続けており、その姿勢は戦争を始めたがっているとしか思えないものだ。そして敵愾心を煽り利用しながら、改憲へも本格的に動き始めている。だからいま一度立ち止まって金子氏らが残してくれた言葉を思い出したい。彼らは、その先に希望はなく、地獄しかないことを、自身の体験から教えてくれているのだから。
(編集部)
最終更新:2018.02.23 05:09