ベッキーが「ありがたかった」と言わざるをえない日本の芸能界の構造
浜田雅功が顔を黒塗りにしたことでも問題となっている『絶対に笑ってはいけない』だが、同番組では「ベッキー 禊のタイキック」と題したドッキリが行われ、ベッキーは身体を押さえつけられたうえで芸人たちと同様の強烈なタイキックを受けた。不倫の「禊」という名の下に暴力をふるう。これはまるで姦通罪の発想ではないか。しかも、その場にいた過去に不倫を報じられたことのある男性に「禊」が問われることはなく、ベッキーだけにその「禊」とやらが加えられるグロテスク極まりない女性蔑視的な構図には批判が殺到したが、その炎上を受けたベッキーのコメントは、二重に権力からの暴力を感じさせるものだった。
「年末のバラエティー番組の代表格なので、そこに出演させてもらってうれしかったです。逆ドッキリされるっていうのもね、タレントとして本当にありがたかったなと思います」(6日放送『ミッドナイト・ダイバーシティー~正気のSaturday Night』JFN系)
ジャーナリストの江川紹子は、ベッキーのラジオでのコメントを受け、ツイッターに〈こう言わざるをえない力関係を利用しての暴力に、よけい番組の問題性を感じます〉と投稿していたが、まさにその通りで、ベッキーに「タレントとして本当にありがたかったなと思います」と言わせてしまう状況こそに問題の本質がある。
また、ベッキーのコメントを言葉通り捉えた人からは「ベッキーに自虐ネタをやらせることで、タレントイメージの復活を手助けするもの」などという番組擁護の意見が聞こえているが、仮にベッキーにとってプラスになったとしても(騒動がひと段落した時期にこんなパフォーマンスをしてベッキーにプラスがあるとも思えないが)、彼女がそのような扱いを受けるのがテレビで放映されるのは、確実に「不倫に関わった女性は暴力を受けても仕方がない」という価値観を拡散することになる。しかも、過去に何度も不倫が報じられている浜田に対して、このような暴力は行われない。男性の不倫には寛容で、女性にだけ制裁が加えられるという男女の不均等もここにはある。
年末の目玉番組であり、多くのスタッフが関わっているであろう企画にも関わらず、ベッキーにタイキックを食らわせることについて誰からも疑問の声が出なかったことは、現在の日本のメディアにおける意識を象徴している。
そのような状況では、ゴールデングローブ賞における俳優たちの思いを一顧だにしないような発言がワイドショーで平然と垂れ流されるのも当然というべきだろう。本当は、いつまでもそんな状況ではお話にならないのだが。
(編集部)
最終更新:2018.10.18 01:54