政府も押し進める「クールジャパン戦略」(内閣府HP)
「クールジャパン」なる標語がかまびすしく喧伝されるようになって久しいが、その成果は一部のアニメ作品に関するもの以外ほとんど聞こえてこないのが現状だ。
そんな状況に対し、岩井俊二監督が疑問の声をあげている。それは、「SPA!」(扶桑社)2017年10月24日号に掲載された上杉隆氏の連載「革命前夜のトリスタたち」でのこと。
岩井監督は、政府や行政が押し進める「クールジャパン戦略」について、その成果に疑問を抱いている。たとえば、こんなことがあったらしい。
「僕の作品が韓国で上映されているとき、隣で日本映画祭みたいのをやっていたんだけど、誰がこのラインナップを決めたんだと思うような知らない作品ばかり……。僕の映画には行列ができていて、日本映画祭に来ていた大使館員とか役人らしき姿があったけど、話を聞きにくればいいのに挨拶すらない(苦笑)。僕は役人を毛嫌いしているわけじゃないし、知っていることなら教えられるのにね」
この体験が象徴しているように、日本のクールジャパン戦略は、映画にも宣伝にも疎い役人が素人考えの延長線上で進めている。これでは、ハリウッドはもちろん、韓国や中国をはじめとした、官民一体となってコンテンツのクオリティから宣伝・配給の戦略まで磨き上げている他国の映画産業に勝てるわけがない。岩井監督は続けてこのようにも語っている。
「クールジャパンも専門家を呼ばずに素人のままやっている。アメリカや韓国、中国は役所の中に専門家が入っていて、僕らプロが唸るようなプレゼンをしたりする。本来、戦略とはこうあるべきなんですよ」
しかし、日本の状況はその逆を突き進んでいる。その最たる例が、経済産業省がクールジャパンの名のもとに巨額の公的資金をドブに捨て、さらに、その事実を隠蔽していた問題だ。
それは、官民ファンドの産業革新機構(産革)が100パーセント株主として出資した官製映画会社・All Nippon Entertainment Works(ANEW)。ANEWに最大60億円の公金投資を決めた産革は政府が出資金の9割を出しており、事実上、経済産業省の支配下にある。
実際、11年のANEW設立じたい、経産省主導で企画されたもので、その設立準備も、当時、同省で文化情報関連産業課長をつとめていた伊吹英明氏を中心に進められた。13年の業界誌のインタビューでは経産省の職員がANEWに出向していたことも確認できる。
こうしてスタートしたANEWはとんでもない計画を立ち上げる。同社は「日本国内コンテンツのハリウッド・リメイクを共同プロデュース」を謳って、アニメ作品や映画などを米国で実写化することを目的としており、設立以降、『大空魔竜ガイキング』、『ソウルリヴァイヴァー』、『オトシモノ』、『藁の楯』、さらにはあの『TIGER & BUNNY』と、7作品もの「ハリウッド・リメイク」企画をぶち上げていた。このうちいくつかでも公開にまでこぎつけたら、特筆すべき功績である。