痔の疑いのある読者へ、朝井リョウからのメッセージ
朝井は患部から膿が出ているような状態なのにも関わらず、騙し騙し我慢して数年にわたって痔を放置していたわけだが、これも「痔あるある」なようだ。
作家でアーティストの故・赤瀬川原平も痔を患ったことがあるひとりだが、彼も病院で手術を告げられてから6年にわたって放置している。
その「先送り」の日々が終焉を迎えたのは、生まれ始めてスキー旅行に行ったときのこと。エッセイ集『困った人体』(マガジンハウス)では、その決定的な瞬間がこのように綴られている。
〈立った瞬間にスルッと滑った。
そのとたんに問題化したのである。スルッと滑って、いけない!と思って、反射的に両足を踏ん張る。一瞬、それまで抱えていた問題のことを忘れてしまう。抱えて、押さえ込んでいた筋肉がゆるんで、一気に結論が出てきた。
「いけない!」
と思ったのは両方に対してである。足もとが滑るのに対してと、問題が露呈したことに対してと〉
そのものズバリな単語はオブラートに包まれているが、読んでいるだけで痛みが伝わってくる文章である。スキー旅行中はナチュラルハイ状態だからそんなに気にならなかったものの、それから帰るともう我慢ができなくなり病院へ。ついに手術を受けることになったそうだ。
ちなみに、痔瘻はあまり長期間放置していると肛門がんになる可能性があり、朝井リョウも手術を受けたとき、がん細胞があるかどうかの検査も一緒に受けたという(幸いなにも見つからなかった)。そんなこともあり、朝井は『風と共にゆとりぬ』でこのように書いている。
〈私は、粉瘤だと勘違いをしていた時期を含めると四年近く治療をしていなかったため、がん細胞が生まれていた可能性もあったらしい。なんということだろう。ベタなことを言うが、肛門に違和感がある人は早めに病院に駆け込む ことをおすすめする〉
痔は作家にとっての職業病なのかもしれない。
(新田 樹)
最終更新:2017.10.24 11:59