獣医学部新設は感染症対策に役に立たないどころか、逆に障害に
この間、何度も指摘されてきたことだが、獣医学部新設は「岩盤規制に穴を開ける」必要などまったくない分野だ。なぜなら、獣医師は絶対数として不足していないからだ。
たとえば、2015年1月9日に行われた国家戦略特区ワーキンググループによるヒアリングの議事要旨を読むと、農水省の消費・安全局畜水産安全管理課長(当時)である藁田純氏が、犬猫の飼育頭数や家畜の飼養頭数を「低下傾向」、飼養戸数も「飼養頭数以上に大きく減少」と説明。その上で「こういう状況を踏まえると、現時点において獣医師の確保が困難になるということは、なかなか想定しにくいのかなと考えております」「今後、需要の点で増加するということが、我々農水省サイドからすると、残念ながら難しい状況かなという感じがします」とはっきり述べている。
これに対して官邸は、獣医師不足の地域があり、獣医学部はその解消のために必要などと言い張っているが、完全にまやかしだ。たしかに畜産が盛んな一部の地方で獣医師が不足しているが(ちなみに新設が認められた愛媛県の2020年度の獣医師確保目標は0人で、不足しているとはいえない)、それは公務員の産業獣医師で、獣医学部の新設でカバーできるような問題ではない。この背景にあるのは、獣医学部出身者の多くがペット病院の獣医師を希望し、産業獣医師を希望するものが少ないという問題だ。
つまり、地方の産業獣医師や公務員医獣医師の不足を解決するためには、獣医学部の新設などではなく、地方の獣医師の待遇改善などが必要なのだが、安倍政権は産業獣医師の確保とはまったく関係のない、レベルの低いペット医師をどんどん増やす学部新設をやろうとしているのだ。
これは、安倍首相が特区指定の理由に挙げた「先端ライフサイエンス分野」や「鳥インフルエンザなどの感染症対策」の研究についても同様だ。
これらの研究は、北海道大学や大阪府立大学など、既存の国立大学で進められ、大きな実績を上げている。ところが、安倍政権はこうした大学には定員増や予算増を認めず、逆にそんな能力のない私立大学の獣医学部をどんどん全国に増やそうというのだ、