その背景には、宅配業者の運賃ダンピング競争があった。現在、日本国内の宅配業界は、ヤマト運輸、佐川急便、日本郵便の3社で90%以上のシェアを占めているという状態だが、各社ともこの十数年の間で、運賃単価がどんどん下がっている。
〈ヤマト運輸では、2000年代初頭には、1個当たり750円近くあった運賃単価が、底となる2014年3月期の決算では500円後半にまで下がった。佐川急便では、2000年代初頭に1000円台近くあったのが、底となる2013年3月期には500円を切るまで落ちている〉
そして、運賃のダンピングの大きなきっかけとなったのが、ネット通販最大手のアマゾンだ。
アマゾンは日本に進出した00年当時、「1500円以上の買い物をすれば送料無料」という設定だった。その当時は、「物流センターの構内作業から宅配業務まで日本通運に業務を一括で委託していた」という。つまり、日本通運のペリカン便(現在の日本郵便のゆうパック)がアマゾンの商品の宅配を担い、その運賃は300円前後だったという。しかし、その後、アマゾンは大きな決断に出る。
〈アマゾンジャパンは全品送料無料として、日本での売り上げ拡大を図った。
その日通に代わって、佐川急便がアマゾンの荷物を運びはじめたのは、2005年前後のこと。佐川急便が値引きした運賃を武器に日通から荷物を奪い取った〉
その結果、佐川急便はアマゾンのシェア獲得でヤマト運輸を抜き業界1位の座を手に入れたが、大きな代償を払うこととなる。
〈アマゾンの荷物によって佐川急便の各営業所の収支が悪くなったばかりか、商業地区における午前中の配達率や時間帯サービス履行率、発送/到着事故発生率などの現場の業務水準を測る指標も悪化した。収支だけでなく、サービスレベルも悪くなったのだから、踏んだり蹴ったりの状態だった〉
つまり、アマゾンの荷物を運ぶことは、佐川急便にデメリットしかもたらさなかったのだ。そして、13年春に佐川急便はアマゾンの配送の大部分から撤退し、運賃の「適正化」、つまり値上げを進めていくこととなる。
佐川急便の撤退後、アマゾンの荷物を運ぶことになったのがヤマト運輸だ。当然、アマゾンはヤマト運輸にとっても大きな負担になっており、同書では「関西地方のヤマト運輸で10年以上働き、宅急便センター長を務める近藤光太郎=仮名」なる人物が、その実情を以下のように告白している。
「これだけ荷物が増えると、現場としては迷惑以外の何物でもないですね。アマゾンのせいで、午前中の配達が一時間後倒しとなりました。一年以上たった今でも、アマゾンからの荷物は正直いってしんどいです」