〈さあさ皆さん聴いとくれゲンパツ賛成音頭だよ/これなら問題ないだろーみんな大好き原子力/ゲンパツ賛成! ゲンパツ賛成!/うれしいゲンパツ楽しいな日本のゲンパツ世界一/なんにも危険はございませんみんな仲間だ原子力〉
ライブではこのような歌詞が完全にバカにしきった歌い方で歌われ、〈一家に一台、原子力〉という一節まで登場する。そして観客は音頭調に合わせ笑いながら〈ゲンパツ賛成! ゲンパツ賛成!〉と歌う。〈自衛隊に入ろう入ろう入ろう/自衛隊に入ればこの世は天国/男の中の男はみんな/自衛隊に入って花と散る〉と歌った高田渡「自衛隊に入ろう」にも通ずる諧謔的な表現手法である。
清志郎がタイマーズなどの活動で表現した反骨精神やユーモア精神は、後進の世代にもしっかりと受け継がれている。2013年には後藤正文(ASIAN KUNG-FU GENERATION)、TOSHI-LOW(BRAHMAN)、細美武士(ELLEGARDEN、the HIATUS、MONOEYES)、恒岡章(Hi-STANDARD)の4人に「よく似た人物」がタイマーズそっくりの衣装に身を包み、RCサクセションやタイマーズの曲はもとより、ジョン・レノン「イマジン」やTHE BLUE HEARTS「青空」などメッセージ性の高い楽曲をカバーするユニット「エセタイマーズ」が突如生まれ、翌年のフジロックに出演するなどの活動が生まれたのは記憶に新しい。「タイマーズのテーマ」の歌詞は〈きめたい燃やしてくれ/さえない時は/ぶっとんでいたい〉の部分が〈お父さんネトウヨ止めてよ/レイシスト止めてよ/差別を止めてよ〉と書き換えられ、現在のものにアップデートされているのも印象的だった。
ただ、このような動きがある一方、ポップカルチャーとしての音楽の歴史を学ぶこともせず無自覚な権力服従に毒されたリスナーは増え続け、ついには本稿冒頭であげたような「音楽に政治を持ち込むな」などというバカげた主張がもてはやされるまでになってしまった。天国の清志郎が見たら、さぞや嘆き悲しむであろう状況に我々はいる。
アメリカでは、エミネム、レディー・ガガ、ケイティ・ペリー、アリアナ・グランデ、コモン、ア・トライブ・コールド・クエスト、マックルモアなど数えたらキリがないほどのミュージシャンたちがドナルド・トランプがつくりだそうとする社会に対して芯のあるメッセージを送り出し、それを楽曲として昇華させていた。その状況と比して、「音楽に政治を持ち込むな」などという主張が跋扈する日本の状況はあまりにもお寒い。
しかし、それでも、忌野清志郎のことを思い出し、彼の言葉にふれたら、少しだけ勇気がわいてくる。30年近く前にできたことが、いまできないはずはないのだから。我々は清志郎のメッセージをもう一度胸に刻み込むべきなのである。
〈この国の憲法第9条はまるでジョン・レノンの考え方みたいじゃないか? 戦争を放棄して世界の平和のためにがんばるって言っているんだぜ。俺たちはジョン・レノンみたいじゃないか。戦争はやめよう。平和に生きよう。そしてみんな平等に暮らそう。きっと幸せになれるよ〉(『瀕死の双六問屋』/小学館)
(新田 樹)
最終更新:2017.11.12 01:46