しかも、同じく今月に入って南スーダンPKOの要となってきたケニアが部隊撤退を表明。ケニアはPKO部隊全体の約1割を占める約1200人を派遣していたが、ケニア外務省は撤退表明と同時に「南スーダンのPKOが、根本的な構造的、組織的な機能不全に陥っていることは明らか」と国連を批判している。治安だけでなく、指揮系統の問題も指摘されているのである。
くわえて問題なのは、PKO参加の大前提となる「5原則」のひとつである「紛争当事者間で停戦合意が成立」という条件に当てはまらないのではないか、という点だ。現在、南スーダンで戦闘が起こっていることはあきらかな事実で、もはや停戦合意は崩壊しているに等しい。しかし、稲田防衛相は「法的な意味での戦闘行為ではない」「7月には『衝突事案』もありました」などと一向に認めなかった。
さらに、既報の通り、7月にはジュバでホテルに宿泊していたNGO関係者たちが襲撃を受け、略奪にレイプ、さらには殺害されるという事件が発生しているが、この襲撃を行ったのは南スーダン政府軍の兵士だった。15日放送の『NEWS23』(TBS)でも、国連PKO部隊の元司令官であり、国連特別調査団の責任者として南スーダンのPKO部隊を調査したパトリック・カメーア氏が「最悪の事態としては、政府軍の兵士と敵対することもあり得ます。それが現実なんです」と語っている。
安保関連法では駆けつけ警護での武器使用が認められたが、自衛隊が「国や国に準ずる組織」に対して武器を使用すれば、それは憲法が禁じる「武力行使」にあたる。安倍首相は昨年8月の国会で「(「駆けつけ警護」において)国家または国家に準ずる組織が敵対するものとして登場してこないことは明らかでございまして」と述べて駆けつけ警護は9条に抵触しないと答弁したが、現実には政府軍に向かって武器を使わざるを得ないような状況が南スーダンでは十分、想定される。そもそも南スーダンへのPKO派遣自体が違法である疑いが濃厚なのである。
憲法に反するこうした事態が起こり得ることを、日本政府が理解していないわけがない。安倍首相は憲法改正について国会で追及されるたびに「憲法審査会で議論すべき」とかわしてきたが、肝心の憲法審査会は参院が昨日、衆院はきょうになってようやく開かれた。なぜ、あれだけ「憲法審査会で」と何度も口にしていたにもかかわらず、なかなか再開されなかったのか。じつは、その裏には今回の駆けつけ警護の問題が絡んでいるのだという。
憲法審査会は参院が今年2月から、衆院は昨年6月に参考人全員から「安保法制は違憲」という見解が示されて以降ストップした状態にあったが、「週刊新潮」(新潮社)11月3日号の記事によれば、再開にあたって野党は「中断した議論から始めよう」と主張。これに対し、与党筆頭幹事の中谷元前防衛相は一度は合意したというが、その後、与党が反故にした。そこには〈官邸の意向も働いていた〉という。記事中では政治部デスクがこんなコメントをしている。