しかし、すべての出版社がプロダクション側の圧力をはねのけているわけではない。上記のリストのなかに、日本三大出版社と呼ばれる、集英社、講談社、小学館のなかから、小学館の雑誌だけないことがとりわけ目立つ。
小学館といえば、のんの「洗脳報道」が加熱するなか、同社が発行する「週刊ポスト」「女性セブン」が、彼女は現場マネージャーの心身が壊れるまで恫喝していたと真偽不明な話を掲載するなど、プロダクション側の言いなりとなってバッシングの急先鋒になっていたことは記憶に新しい。両誌、特に「女性セブン」はバーニングに近いといわれる媒体だ。
おそらく今後も、レプロやバーニングに忖度する姿勢を貫く、テレビ、ラジオ、また、べったりの姿勢の出版社のメディアにのんが出演することは難しいだろう。
しかし、業界から一旦干されてもネットで再ブレイクしたことにより紅白歌合戦の舞台に戻ることのできた小林幸子の例を見れば分かる通り、現在は既存の大手メディアに頼らずとも十分仕事をすることはできるし、そこで確固たる人気を獲得することができれば、その人気を武器に元の舞台に返り咲くことも不可能ではない。
『この世界の片隅に』は、試写を観た評論家からの評価はすこぶる高く、片渕須直監督の手腕とともに、のんの声優としての演技に絶賛の声が多く寄せられている。映画通として知られ、映画に関する書籍やエッセイも多く著している大槻ケンヂ氏もこの映画について「今までにないタイプの戦争映画ですね。これは文句なしの傑作よ!」(「映画秘宝」16年12月号)と惜しみない賛辞を送っている。
『シンゴジラ』『君の名は。』の大ヒットの例を見るまでもなく、現在の映画業界においてSNSを通じた口コミの宣伝効果は、テレビやラジオなどの既存メディア以上に大きい。前評判の高さからいって、『この世界の片隅に』も口コミからヒットする可能性は十分にあるといっていいだろう。
女優としての本格的な再スタート作1発目から、のんは最大のチャンスを迎えている。前所属プロダクションの圧力をはねのけ、成功を手に入れることを期待して止まない。
(新田 樹)
最終更新:2017.11.12 02:28