留置場の生活ではありとあらゆる場面で担当官による被留置者への嫌がらせが繰り広げられる。しかも、それは端から見れば笑ってしまうほどくだらなくて子どもじみたものでもあり、ひたすら被留置者をいじめ抜いている看守のイメージからすると少し意外な一面でもある。
たとえば、食事中のBGMである。昼食と夕食の時はスーパーでかかっているような、J-POPの懐メロをインストアレンジしたものがかかるそうなのだが、一度変にひねりを加えた選曲をしてきたことがあったという。『暴れん坊将軍』のテーマをバージョン違いで何度もリピートし、その後に続けて『必殺仕事人』のテーマもバージョン違いで同じように繰り返しかけられた。DJという仕事柄もあってか面白くなってしまって思わず反応してしまうと、室長はすかさずこう言い放ったという。
〈室長が「こいつら、笑わそうと思ってやってますから、こんなもんに反応しちゃダメですよ」と冷静に言い放った。「確かに」と思った。こういう細かいところでも、被留置者と担当官の意地と誇りをかけたバトルはあるのである〉
もうひとつは留置場ファッションをめぐる攻防だ。留置場では規定に合う私服の持ち合わせがない場合、留置場にストックされている服を貸し出してもらうのだが、そこには留置場の貸し出し服であることを示す「トメ」という字が書かれており、通称「トメ服」と呼ばれている。この「トメ」の書き方をめぐっても、しょうもない嫌がらせがあったと本書には書かれている。
〈“トメ”の書き方には色々なパターンがあり、地検で各警察署の被留置者が集まる時などはなかなか見ごたえがあった。各警察署ごとに(担当官のクソいまいましい遊び心で)趣向を凝らしてあるのだが、“TOME”とアルファベット表記してあったり、ちょっとロゴ風にアレンジしてあったり、渋谷警察署のトメ服という意味で“渋留”と書かれているもの、野球のユニフォームのネーム風に“SHIBU TOME”と書かれているものなど、本当に余計なお節介と遊び心に溢れていて、いちいち癇に障る代物だった。
最もヒドい悪ノリが感じられたのは、adidasのマークのパロディ風にtomedasと書かれていたものだ。そんなものを楽しむ余裕もない我々被疑者は、担当官のクソみたいな遊び心で書かれたtomedasでも黙って着るしかない〉
こんな感じで、高野らしいツッコミが満載の同書。一般的な獄中記ではあまり明かされることのない、留置場の意外な側面を垣間みることもできる。
(新田 樹)
最終更新:2017.11.24 06:50