■“「生前退位」第1条違反論”のデタラメ
日テレ報道によれば、内閣法制局は「生前退位」が憲法第1条に反すると主張しているという。
〈天皇陛下のお言葉について安倍首相は「重く受け止める」と表明したが、政府は憲法との整合性をいかに保つか、難題に直面している。政府関係者によると、憲法と法律との整合性をチェックする内閣法制局などは、生前退位を将来にわたって可能にするためには「憲法改正が必要」と指摘しているという。
これは憲法第1条で天皇の地位は日本国民の総意に基づくと定めていて、天皇の意思で退位することはこれに抵触するという理由。〉(「天皇生前退位 制度化は「憲法改正が必要」/8月22日付「日テレNEWS24」より」
言うまでもなく、憲法第1条は《天皇は、日本国の象徴であり日本国民統合の象徴であって、この地位は、主権の存する日本国民の総意に基く》という条文が意味するとおり、象徴天皇制と国民主権を明記したものだ。
この“第1条違反論”が本当に内閣法制局から出てきたものなのか、「政府関係者」が記者に吹き込んだのかは判然としないが、いずれにせよ、そのロジックはこんなところではないかと推測できる。
“第1条後半より、天皇の地位は「主権の存ずる日本国民の総意に基」いている。一方、制度として「生前退位」を認めれば、天皇が自発的に退位・譲位することが可能となりうる。その場合、「国民の総意」を経ているとは必ずしもいえない。したがって「生前退位」は違憲である”──。
もちろん、法理論的にまったくデタラメな解釈だ。そもそも、第1条にある「天皇」は、天皇個人ではなく天皇制という“機能”を指すというのが学会の定説である。ゆえに、ここでの「国民の総意に基く」というのも、大方の国民が“現在の象徴天皇制を肯定している”という状態あるいは結果を意味しているとされる。天皇制と憲法の研究で知られる憲法学者・横田耕一九州大学名誉教授による解説を引用しておこう。
〈憲法制定時にも、天皇廃止論が存在したことから分かるように、国民の一部に象徴天皇制に反対する者が存在するとしても、それが憲法改正意思として現れない限り、国民の総意は象徴天皇制を選択しているのである。
また、この「国民の総意」は、個々の天皇を認めるかどうかについての意思ではない。憲法に規定された天皇を認める総意であって、特定の天皇を特に承認する総意ではない。天皇の代替わりに際して、この規定を根拠に、新天皇は国民の信任投票を受けるべきだとする意見が聞かれたが、この規定をそのようなことまで要求していると読むことは困難である。〉(『憲法と天皇制』岩波新書)