『UNIVERSAL MUSIC JAPAN』公式サイトアーティストページより
アスリートを差し置いて登場した“安倍マリオ”が話題をさらったリオオリンピック閉会式。本サイトでは昨日、この演出を安倍首相の政治利用とグロテスクな国威発揚だと批判したが、じつはもうひとつ、閉会式では気になる“事件”が起こっていた。
それは、オリンピック旗を引き継ぐフラッグハンドオーバーのシーンで流されていた音楽についてだ。
このとき流されたのは、椎名林檎の「望遠鏡の外の景色」という楽曲で、野田秀樹演出の舞台『エッグ』のために書き下ろされた一曲。今回、椎名は東京のパフォーマンスにクリエイティブスーパーバイザーとして参加していたため、自身の楽曲のなかからこれをチョイスしたと思われるが、「まさか、よりにもよって五輪で使う?」と疑問の声がネット上では広がった。
というのも、『エッグ』という舞台は、1940年の幻の東京オリンピックを戦争とナショナリズム発動の装置として批判的に描いた内容だっただからだ。しかも、舞台は途中で1940年代の満州に移り、731部隊による人体実験まで描かれるという踏み込んだものだった。
『エッグ』の初演は2012年で、当時は東京が五輪開催地になることが決定する前だったが、野田は15年、パリでの『エッグ』再演後のインタビューで、こう話している。
「20世紀に民衆を扇動したスポーツや音楽は、コマーシャリズムの発達と共に巨大化していきました。さらに言うと、大衆を狂信させたものに20世紀の二つの戦争があり、スポーツ、音楽、戦争の三つに共通性を見つけたのです。それが、では舞台ごと満州に連れていってしまえ、という野心に変わったのです」(「フランスニュースダイジェスト」より)
オリンピックで掻き立てられるナショナリズムは戦争に通じる……。この舞台で野田からのラブコールにこたえ、椎名は音楽を担当。当然、舞台のテーマがどんなものであるかを椎名が知らないはずもない。そのため今回、椎名が“本物”のオリンピックの舞台で『エッグ』の楽曲を使用したことも、ネット上では「確信犯では?」「意味深な感じもキライじゃないかも」などと好意的な捉え方をする人が多い。
だが、椎名がオリンピックをシニカルに捉えて、この楽曲を閉会式で用いたとは思えない。本サイトでは以前にも指摘したが、椎名はこれまで何度もナショナリズムを“肯定的”に表現のなかに落としこんできたからだ。