つまり、「措置入院見直し」は警察の捜査ミスを隠蔽するためにもち出された話であり、マスコミはそれにまんまと乗っかっているだけなのだ。
しかも、いま、議論されているその措置入院制度の見直し論自体が明らかに的外れなものだ。自民党の極右政治家、保守系マスコミは、措置入院の強制性を高めろ、と叫んでいるが、これは日本も批准している国連の障害者権利条約の条文《いかなる場合においても自由の剥奪が障害の存在により正当化されないことを確保する》に逆行している。
そもそも日本は、先進国のなかでも精神科病院の患者入院日数がダントツで長く、人口1万人あたりの病床数も1位というランクを独走しつづけている“精神保健後進国”だ。こうした日本の対応は、WHO(世界保健機関)より、“社会に開かれた療法を取り入れることによって入院の増加を防ぐべき”などとする勧告を受けてきた。
しかも、これはたんに人権侵害の問題だけではない。治療の実効性という意味でも入院の強制性を高めることは逆効果だというのは専門家の間で常識となっている。現に、戦後の先進国の精神保健は、施設収容ではなく地域中心の継続的なケアに重点が置かれるようになっている。
そんな現実も知らずに、ひたすら「精神病患者を閉じ込めろ」と時代錯誤の主張を叫ぶ自民党政治家と右派マスコミ。ようするに、連中は今回の事件を政治利用して、人権制限の口実にしたいだけなのだ。実際、山東昭子参院議長などは、精神疾患の患者とはまったく関係のない性犯罪者対策として導入されている「GPSを使った監視」をもち出し、「人権という問題を原点から見つめ直すときがきている。ストーカーもそうだが、人権という美名の下に犯罪が横行している」といったとんでもない主張を当たり前のように語っている。
繰り返しておくが、今回の事件は明らかなヘイトクライムだ。植松聖容疑者が措置入院中に「ヒトラーの思想が2週間前に降りてきた」などと病院の担当者に語り、友人や理容室の店員に「障がい者は国にとって無駄な金じゃね?」「(障がい者)ひとりにつき税金がこれだけ使われている」「何人殺せばいくら税金が浮く」と語っていた。こうした思想は、安倍政権の閣僚や自民党の極右政治家たち、そしてネトウヨたちももっており、植松容疑者は明らかに影響を受けている。
それがまったく語られず、逆にここぞとばかりに、精神障がい者の人権制限が大きな声で叫ばれる。いったいこの国はどうなってしまったのだろうか。
(編集部)
最終更新:2016.07.31 06:07