それはまるで、無党派層が動くと与党の不利になることを見越して、「寝た子は起こすな」と言わんばかりだ。挙げ句、参院選の争点をじっくり問うこともなく、「都知事選に誰が出馬するか?」という報道で参院選の存在をうやむやにしようとしている。「憲法改正」という争点を隠している自民党に対し、メディアもグルになっている状態なのだ。
そんななかで石田は、都知事選出馬の話題でマスコミを惹き付け、参院選直前の最後の平日、つまりもっともテレビメディアが食いつくタイミングで会見を開いた。そこで石田が訴えたのは、冒頭に記したように“いまの与党に対抗するためには野党の集結”だった。──これは、都知事選と同時に、参院選における野党共闘の大きなアピールにほかならない。そして、今回の参院選は「憲法改正」である、と言い切ったのだ。
なんと石田は自覚的な人なのだろう、と感嘆せずにはいられない。マスコミがまやかしの参院選報道を行い、争点隠しに与するなかで、芸能人である自分が“客寄せパンダ”になって参院選を、野党の団結をアピールしよう。そう考えて石田が行動したとしか思えないからだ。
その石田の“自覚”は、質疑応答にも表れていた。日刊スポーツの記者から「靴下を履かないスタンスは都知事になっても続けるか?」というじつにくだらない質問を受けても、石田はにこやかに「(素足に靴は)しばらくは続けます」と答えた。これはマスコミが石田純一というキャラに何を求めているのか、それに応えることによってマスコミは大きく扱ってくれるということがわかっているのだろう。
実際、国会前の安保法制反対デモでのスピーチでも、「戦争は文化ではありません!」と自身の過去の“失言”である「不倫は文化」をもじったり、さらにはジャケットの上からセーターを肩がけするという珍妙なファッションでカメラの前に立った。そう、バブル期のトレンディ俳優時代、石田が流行らせた“プロデューサー巻き”を、わざわざ仕込んできたのである。
もともと石田は安倍首相と食事をともにする“仲間”だった。だが、集団的自衛権の行使容認をきっかけに、石田は“間違っていることには間違っていると言わないと”と安倍首相とは距離を置き、国会前で反対を叫んだ。そしていま、芸能人という自分の立場を最大限に使い、安倍自民党とメディアがひた隠す「憲法改正」が参院選の争点なのだと訴え、なぜ野党が力を合わせて選挙に挑んでいるのか、その意味を伝えた。
それだけではない。石田がメディアの注目を集めたことによって、安保法制における国会前反対デモの映像がワイドショーで久々に流された。「安保法制の廃止」も重要なイシューであると、石田の存在が伝えたのだ。