事実、安倍政権が今年の伊勢志摩サミットに先駆けて発表した「質の高いインフラ輸出拡大イニシアティブ」には、インフラ輸出の目的として〈日本企業の受注・参入を一層後押しするため、今後5年間の目標として、インフラ分野に対して約 2,000 億ドルの資金等を供給する〉と明記されている。つまり、安倍政権によるODAは経団連に名を連ねるような日本の大企業への利益還元の仕組みの一環なのだ。
世界各地で頻発するテロの根本には、 グローバル化した市場原理による経済的不平等のなかで、貧困層の若者のフラストレーションが宗教的原理主義へと結びついているという指摘がなされる。その点で言えば、安倍政権が推し進めるODAは、まさに支配者層における富のサイクルでしかなく、欧米先進国と同様に、テロリストから見れば「日本人」もまた打倒すべき「支配者」となる。そう、現実は、「日本はODAで頑張っているから大丈夫」というなんとなくの安心感とは皮肉にも真逆なのだ。
さらに言えば、JICAという組織は、昨年理事長に就任した政治学者・北岡伸一氏にしても前任の田中明彦氏にしても、安倍政権の安全保障などタカ派政策にお墨付きを与えてきた学者であり、安倍政権の方針を右から左に実現するような体制となっている。安倍政権は昨年、ODAの基本方針を定めた「開発協力大綱」を11年ぶりに見直し、これまで認められていなかった他国軍への援助を可能にした。表向きは「非軍事分野に限る」としているものの、実際には援助した資金をその国の政府に軍事転用されると懸念されており、これも反政府系過激派から見れば「日本」という国による自分たちへの軍事敵対行動だ。テロの対象とならないわけがない。
ようするに、安全保障上の利益や日本企業への利益還元を優先する安倍政権のODA政策は、海外で実際に貧困支援などに従事する邦人を、かえってテロの危険にさらす結果になっているのだ。
しかし、今回のダッカ人質殺害事件が発生し、今後も海外で邦人が標的にされることが明らかな状況にもかかわらず、当の政権は自国民の命などどうでもよく、頭のなかは選挙一色らしい。
菅義偉官房長官は事件発生直後の2日、接戦と見られている新潟へ応援演説に向かい、人質事件については一言も触れなかった。さらに、安倍首相の代わりに北海道入りした高村正彦副総裁に至っては、応援演説で「(安倍首相が来ることができず)アイアムソーリ(すみません)、アイムノットソーリ(総理ではありませんが)」などと信じられないオヤジギャグを披露した。こういうまったく危機感のかけらもない政権中枢の様子はもはや背筋が凍るようだが、しかし、これが安倍自民党の本性なのだろう。
日本を“戦争のできる国”にしたいがために、海外の邦人をテロの危険にさらしてもなお、平気な顔でいる安倍政権。「テロには決して屈さない」などと勇ましい言葉を空虚に繰り返す安倍政権のデタラメな政策を、わたしたちは冷静に見つめなおす必要がある。
(宮島みつや)
最終更新:2016.07.05 11:04