左『風俗嬢という生き方』(光文社)/右『熟年売春 アラフォー女子の貧困の現実』(中村淳彦/ミリオン出版)
2020年、東京オリンピックを機に大規模な浄化作戦が行われ、日本の風俗産業は壊滅するのではと噂されている。
いささか突飛な話のようにも聞こえるが、これは事実無根の憶測でも、から生まれた都市伝説でもない。事実、過去には国際的なイベントが国内で開催されるのにともない、大規模な浄化作戦が行われたことがある。その一例が、90年に大阪市と守口市にまたがる鶴見緑地で開催された「国際花と緑の博覧会」(花博)の際の浄化作戦だ。これにより、キタとミナミ両地域に存在していたソープランドは一掃されている。
このように、現在、風俗業界はまさに存続の危機に立たされているわけだが、風俗が消えてしまって困るのは夜の街を歩く男たちだけではない。風俗がなくなってしまえば、そこで働いていた女性たちも路頭に迷ってしまう。
「貧困女性の最後のセイフティネット」
働く女性の3人に1人が年収114万円以下と言われ、現在「女性の貧困」に関する問題が盛んに指摘されるなか、このような言葉が多く聞かれるようになった。風俗業界は、単なる悪所ではなく、いまやここでしか生きていくことのできない人たちのための最後の砦となっている。
しかし、その風俗ですら現在ではまともに稼ぐことのできる産業ではなくなり、貧困に対するセイフティネットとしても機能しなくなりつつあるという。15年近く風俗嬢たちにインタビューをし続けてきたライターの中塩智恵子氏は『風俗嬢という生き方』(光文社)のなかで次のように綴っている。
〈この15年では、2005年の風営法の改正が、日本の、特に首都圏での風俗業界にとって大きな転換期だったように思える。街にあった店舗型風俗店が衰退し、無店舗型の派遣風俗が増加した、街からは妖しく光るネオンといかがわしさがかき消され、風俗街へ赴き遊ぶというスタイルから、自宅やホテルへ呼んで遊ぶスタイルが主流になった。
(中略)
売る側にとっては法改正以降、店舗間の競争が激化した。それによりサービスに付加価値(人によってはそれが本番行為になる)をプラスしなければならなくなった。しかしそれに見合った金銭的なリターンはさほど得られない。そこへ追い打ちをかけるように景気後退がやってきて、以前より格段に儲からない商売となった。やがて景気の冷え込みから、売る人がさらに参入してくるようになり、どんどんうまみのない仕事になっていった。それでも風俗嬢になる人は後を絶たない。1990年代に援助交際という言葉が流行り出してから、裸でお金を稼ぐことが素人に一般化してきた。この性の概念の変化が、売る人が減らない理由にもなり得るし、落ち込み続ける景気後退がその理由にもなり得るし、子供を抱えてシングルマザーとして生活しなければならないのに女性の雇用状況は不安定だったり……と、社会の仕組みがその理由にもなり得る。とにかく、これらさまざまな要因が複雑に絡み合って現在も風俗業界をつくりあげている〉