現に稲田氏は、昨年3月12日の会見で、渋谷区の同性パートナーシップ条例に対し、このように否定的な見方を示している。
「憲法上の婚姻の条項や家族のあり方とか、少数者に対する差別をなくすということはそのとおりなのですけれども、それをどこまで法的に保護していくかということなどは、憲法に関るような非常に大きな問題なので条例という形ではなくて大きな議論をすべきと考えています」
「LGBTへの偏見をなくす政策を」と言っているのに、一方では“法的には保護できない”と言う。こうした矛盾は、先日4月27日に自民党政務調査会が発表した「性的指向・性自認の多様なあり方を受容する社会を目指すためのわが党の基本的な考え方」にも現れている。
この文書では、まず目指すべきこととして〈カムアウトできる社会ではなくカムアウトする必要のない、互いに自然に受け入れられる社会〉を謳っている。たしかに「カムアウトする必要のない社会」はめざすべき理想であり、そのためには法的に権利を認めることがもっとも重要になってくる。にもかかわらず、〈パートナーシップ制度に関しては、国民の性的指向・性自認に対する理解の増進が前提であり、その是非を含めた慎重な検討が必要〉などといい、肝心の問題からは逃げるのだ。そして、やはりここでも〈性的指向・性自認の多様性を認め受容することは、性差そのものを否定するいわゆる「ジェンダー・フリー」論とは全く異なる〉とわざわざダメ押しまでしている。
このように、稲田氏や自民党は「LGBTへの偏見をなくす政策を」と本気で考えているとは到底思えない。夏の参院選をにらんで、「LGBTの理解者ですよ」とすり寄ることで支持層の拡大を狙っているにすぎないのだ。
しかも、同時に稲田氏には、“差別者の一面”を打ち消したいという思惑もあるはずだ。稲田氏はヘイトスピーチ団体「在日特権を許さない市民の会」(在特会)との深い関係も指摘され、その“蜜月”を報じた「サンデー毎日」(毎日新聞社)の記事を稲田氏は名誉毀損で訴えていたが、それも今年3月11日に大阪地裁で全面敗訴している。つまり稲田氏は、「LGBTフレンドリー」な姿勢を装うことで、自身の差別的なイメージを覆い隠そうとしているのだろう。
人権侵害や少数者の排除、弾圧などを行う一方で、イメージ戦略として性的マイノリティを利用することは「ピンクウォッシュ」と呼ばれ、批判されているが、稲田氏もやっていることは同じ。さらには、稲田氏が性的マイノリティへの差別を助長しかねない思想の持ち主であることを考えると、かなり質が悪いと言わざるを得ない。
ぜひ、稲田氏には、「LGBTへの偏見をなくす政策」を具体的にあげ、過去の自身の発言や懇意にする団体が同性愛差別を行っていることなどをどう考えているのか、いまこそはっきりと語ってほしいものだ。
(田岡 尼)
最終更新:2016.05.08 07:04