そんななかでも、最もこの問題に深く関わっていったのが、元AV女優で、現在は作家として活動している川奈まり子だ。
彼女は実際にヒューマンライツ・ナウ側とも直接コミュニケーションをとり、監督官庁を設置すべきだとしたり、プロダクションやメーカーと女優との間の契約内容の改善を促すなど、その報告書内には有益な提言もあるとしながらも、制作会社とメーカーと流通の役割について混同していたり、撮影前に面接の段階で女優には撮影内容の説明があり、その際に女優のNG項目は尊重されるのが普通であるなど、報告書には実際のAV撮影現場の状況から考えて誤り・偏りと目される部分があると自身のフェイスブックにて指摘している。
また、「実話ナックルズ」(ミリオン出版)16年5月号のインタビューでは、このようにも発言している。
「HRN(引用者注: ヒューマンライツ・ナウの略称)は4年間での被害件数を93件としていますが、現役AV女優は約4000人とも8000人とも言われAVの年間発売タイトル約2万件という数字のなかでは、非常に低い数字です」
たしかに、アダルトビデオというメディアが誕生してから35年近くたち、業界は以前よりもずっと近代化された。かつては珍しくなかった、騙して出演させる、撮影でNGの行為を無理やりさせるといったような話もあまり聞かなくなった。
そういう意味では、アダルトビデオ業界全体で人権侵害が横行しているようなヒューマンライツ・ナウの調査報告書は過剰に感じるというのもわからなくはないが、しかし、ではそういう騙しや強制による撮影が皆無なのか、というとけっしてそうではないだろう。
今回の件について発言している女優たちは、いずれも、単体女優やキカタン(企画単体)女優が多いが、SMなどのハードな企画女優たちの中には、半ば強制的に過酷な撮影を強いられているケースはけっこうあるし、そもそも、ひどい撮影には交渉能力のない女性を選んでいる傾向もある。
たとえば、鈴木大介氏の著作『最貧困女子』(幻冬舎)でも、ハードなAV出演者には知的障害の女性が多いとして、「いわゆる三大NG現場(ハード SM、アナル、スカトロ)にいる。特にスカトロのAVに出ている女優の半数は知的障害だ」というAV関係者の証言を掲載している。