それもそのはず。フィンランドが最終処分場に選んだオンカロは地震がめったになく、地層は18億年間、ほとんど動いていない場所だという。その岩盤を400メートル掘り下げて2キロ四方のスペース(東京ドームの約85倍)をつくり、そこに高レベル放射性廃棄物を保管しようというのだ。そんな場所はまず日本にはない。しかも、保存期間は10万年だ。小泉は言う。
「水が出たら、(有害物質が)外に漏れる可能性がある。10万年も絶対に外に出してはいけない。日本にそんな地域がありますか。400メートル掘れば、水が出てこないどころじゃない。ほとんどの地域は温泉が出てくるんじゃないか」(2015年5月9日、神奈川県小田原市での講演)
ただでさえ難しかった最終処分場の候補地選びは福島原発の事故によって絶望的になったとも言う。さらに、10万年という途方もない歳月について「言葉」の問題はどうするのかと、鋭い疑問を投げかける。例えば、現代日本人は同じ日本語であっても、たかだか1000年あまり前の古文を読むのに苦労する。古代エジプトの象形文字は専門家でなければ判読不能だ。同じように、我々がいま使っている言葉が1000年後、1万年後にどうなっているかすらわからない。そこに危険な物質が保管されているということを10万年後の人類に正しく伝えられるだろうか、と小泉は言うのである。確かにそうだ。
原発は「トイレのないマンション」といわれ、いまだにトイレができる目処すら立っていない。いまからつくろうといっても絶対に無理だ。だったら、別のこと(自然エネルギー)を考えたほうが早い、というのが小泉の考えなのだ。
小泉が、この使用済み燃料の最終処分について語るときによく使うたとえがある。日本では産廃業者が自分で処分場を見つけなければ都道府県知事の許可がおりない。なのに、原発業者は産廃より危ない核廃棄物の処分場を一つも見つけていないのに認められている。これはおかしくないか? 新聞はなんでこれを書かないんだ、と。実は、小泉がこうした「ゴミ問題」に食いつくのにはわけがあった。
きっかけは、1970年代〜80年代にかけて問題が表面化した瀬戸内海に浮かぶ豊島(てしま、香川県)の産廃不法投棄事件だ。約6.9ヘクタールの土地に50万トンもの廃棄物が積み上げられ、ゴミの島と化してしまった事件だった。廃棄物から水銀やPCBなど有害物質が流れ出し、住民は恐怖の中での暮らしを余儀なくされていた。この問題に正面から取り組んだのが1996年に第2次橋本内閣で厚生相に就いた小泉だった。
小泉は就任インタビューで、「豊島の問題はテレビで以前見たが、ひどい。住民の怒りは当然だ。十分理解できる」と発言するなど、この問題に強い関心を示していた。その言葉通り、まずは廃棄物処理法の強化に着手し、不法投棄に対する罰金額を引き上げたり、不法投棄した産廃業者が倒産した場合は排出業者に責任を取らせるようにしたりする。さらに、首相になった後の2003年6月には、過去に不法投棄された産業廃棄物の撤去費用を国が支援する「特定産業廃棄物支障除去特別措置法」を成立させ、豊島の産廃処理がその法律適用の第1号事業として認めさせた。