こういうと、おそらく、橋下氏は「大阪市長を辞めた今はただの私人」などという詭弁を弄するだろう。橋下氏は昨年末の「引退会見」直後にも、ツイッターで所属法律事務所の名前を持ち出して「これからは私人。社会的評価を低下させる表現には厳しく法的対処をする」などと宣言、自分への批判に対して露骨な恫喝をしかけている。
しかし、橋下氏が「自分は私人」と主張すること事態、詭弁でしかない。自分を守る時だけ私人を騙り、片方で政党の事実上の代表として、政策決定に関与しているというのは、明らかなダブルスタンダードではないか。
報じられているところによれば、橋下氏の新番組は、まず3月のパイロット版で3つの企画を試みて、そのうえで今後の方針を定めるらしいが、企画候補のなかには「橋下さん!日本のこんな所オカしくないですか?(仮)」なる仮題でゲストの論客らと「日本の未来を考えるトーク企画」もあるという。ようはこれ、バラエティの皮を被った政治討論番組だ。おおさか維新の名前はださなくとも、その政策を喧伝することになるのは目に見えている。
いや、仮に一切、政治的なテーマを扱わなかったとしても、橋下氏が国民に“おおさか維新の顔”というイメージで受け取られている以上、毎週、テレビに出るだけで政党にとって大きな宣伝になる。おおさか維新の人気はまだ関西ローカルにとどまっており、テレビの全国放送に出ることは、それを一気に全国区に広げることになるだろう。もちろん、選挙結果へも多大な影響を及ぼすはずだ。
しかも、その効果は、たんにおおさか維新という一政党の勢力が拡大するというだけにとどまらない。これは安倍首相が目論む改憲の動きにもつながっていくのだ。
昨年12月19日、橋下氏は松井代表とともに都内の日本料理店で、安倍首相、菅義偉官房長官と会食を行っている。その場で、橋下氏が「憲法改正が必要だ」と述べ、安倍首相と見解を同じくしたということは、松井代表も認めている事実だ。
さらに産経新聞12月21日付は「政府高官によると、安倍首相の政権運営や政治手法などに関しても意見交換した」とも報じている。おおさか維新が今夏の参院選で議席数を伸ばし、自公と合わせて改憲発議に必要な3分の2の議席を確保すれば、そのまま安倍政権はおおさか維新を連立内閣に迎え入れ、改憲を具体化させていくのは明らかだろう。
ようするに、テレビ局が橋下氏に冠番組をもたせることは、最終的に安倍政権による改憲に加担することになるのだ。これは、公権力と徹底して距離を持つべきマスメディアとして考えられない行為。いったいテレ朝は何を考えているのか。