早川氏は、引き取った法務省案に再婚禁止期間の見直しを付け加えた特例法案の試案を、PT発足の前日に完成させた。「新法はほとんど出来上がっ」ていたのだ。しかし、“伝統的家族観”や婚姻制度を評価し、特例法案をよく思っていなかった長勢法相は、同じく保守派の中川昭一政調会長(当時)に反対の動きを働きかけていたという。言うまでもないが、中川氏は安倍首相の盟友。長勢氏もまた、安倍首相の出身派閥で、党内最右派である清和会の流れをくむ町村派(当時)に属していた。
与党PT発足から数日後、早川氏は中川氏に呼び出され、特例法案の再検討を指示されたという。早川氏は著者にこう証言している。
「(中川)政調会長がストップをかける。僕を外す。そういうことになってくると、結局は先へ進める人がいなくなる。で、先送りにさせて結局は流れてしまう。自民党の古い体質だよね」
本書によれば、さらにここに本来は無戸籍問題と別問題であるはずの夫婦別姓に反対する党内勢力が口を挟んできていたという。そうして前述の「通達」が出されたわけだ。
そしてもうひとり、特例法案にかんする会議で反対の急先鋒に立った議員がいる。現在の自民党政調会長で、次期総理候補とも言われる安倍首相のお気に入り、稲田朋美氏だ。
本サイトでも何度も紹介してきたが、稲田氏といえば夫婦別姓に猛烈に反対していることで知られ、幾度となく女性の社会進出を阻害している極右議員。稲田氏は「300日問題」について、著書『私は日本を守りたい』(PHP研究所)のなかで、こんな意見を開陳している。
〈「無戸籍」というと、まるで生まれながらにして戸籍のない子のようですが、母親が前夫の子として届けるのが嫌で出生届を出さなかったために戸籍に記載されていない「未届の子」というのが正しい呼称です〉
見識を疑わざるをえない。前述のとおり、母親が子どもの出生届を出さないのは、夫のDVや報復などを恐れて届け出ることが“できない”からだ。こうした稲田氏の発言は『戸籍のない日本人』のなかでもいくつか紹介されているが、彼女はあきらかに“無戸籍解消のために民法を改正すると戸籍制度が崩壊する”という観念に取り憑かれているようだ。実際、前掲書でこんなことを言っている。
〈目の前のかわいそうな子を救うべきだという美しいスローガンの陰に、日本の家族を崩壊させる危険が潜んでいるということに気がつかなければなりません〉