実際、あの鈍器として殺人に使えそうな本を紐解き、内容を確認してみると、その疑念はどんどん濃くなっていく。常識的に考えて、仮に同書に「中立性」が求められるのだとすれば、それは用語を羅列する事典部分に限られるはずだが、しかし、いくら読んでみても、ネトウヨレビュアーが何をもって「過激派パヨクの方々の用語」「70年代のテロ用語」などと言っているのか、まったく検討がつかない。
一例を挙げると、「世相語」のジャンルには「SEALDs」「戦争法案」「レッテル貼り」「早く質問しろよ」など新語・流行語大賞にノミネートされネトウヨが怒り狂った言葉が収録されているが、各項目の解説は「偏向」からは程遠いものだった。
たとえば「SEALDs」の項目では、活動内容に関する解説はこれだけ。〈政党や何かの団体による集団ではなく、現政権に対して「立憲主義を守れ!」の一点で結成されたという〉。また、「レッテル貼り」=〈安倍晋三首相が「レッテル貼りはやめて」と繰り返したために、これが流行語の様相を呈している〉、「早く質問しろよ」=〈安保関連法案を審議する衆院平和安全法制特別委員会で、民主党の辻本清美議員の質疑中に安倍首相が飛ばしたヤジ〉と、拍子抜けするほど簡潔に記されている。
さらに「戦争法案」の項目にいたっては、社民党の福島瑞穂議員が今年の国会でそう切り出したこと紹介したあと〈この「戦争法案」という「レッテル貼り」は、出来の悪い「ワンフレーズポリティックス」であると法案賛成側からの批判が相次いだ〉と、むしろ批判的な書き方ともとれる。よく言えば、客観的事実のみを記載していると言えるが、これらの言葉に注目してきた本サイトとしては、むしろ物足りなく思えるほどだ。
だとすれば、ネット右翼たちは“政権を批判的な言葉”が収録されていることだけをもって「偏向」と騒ぎ立てていることになる。実際、ネットではこんな主張がされていた。
〈「I AM KENJI」「参加民主主義」「民主主義ってなんだ」このあたりって完全にパヨクだもんなあw〉
だが、「I AM KENJI」の解説では“議論を断ち切ってかえって自己陶酔的な気分にさせる効果もあったのではないか”と書かれているし、「参加民主主義」「民主主義ってなんだ」にいたっては説明自体がほんの数行。しかも、この程度「偏向」だとすれば、同書に収録されている“安倍政権側の言葉”はどうなる。