年老いた水木が、書斎で戦争中、ココポでの出来事を回想する。水木青年は、上等兵に「お前も行ってこい」と言われる。以下、水木のモノローグ。
〈というようなことでピー屋の前に行ったがなんとゾロゾロと大勢並んでいる。
日本のピー屋の前には百人くらい、ナワピー(沖縄出身)は九十人くらい、朝鮮ピーは八十人くらいだった。
これを一人の女性で処理するのだ。
僕はその長い行列をみて一体いつ、できるのだろうと思った。
一人三十分とみてもとても今日中にできるとは思われない、軽く一週間くらい、かかるはずだ。
しかし兵隊はこの世の最期だろうと思ってはなれない、しかし……
いくらねばっても無駄なことだ。
僕は列から離れることにした。
そして朝鮮ピーの家を観察したのだ。
ちょうどそのとき朝鮮ピーはトイレがしたくなったのだろう、小屋から出てきた。〉
朝鮮人慰安婦が便所で用を足すところを見て、水木は「はァ」と目を見開く。そして、頭を抱える。以下、再びモノローグ。
〈とてもこの世の事とは思えなかった。
第一これから八十くらいの兵隊をさばかねばならぬ。
兵隊は精力ゼツリンだから大変なことだ。
それはまさに“地獄の場所”だった。〉
場面はかわって、現代。書斎の椅子で目をつむる老いた水木は、〈兵隊だって地獄に行くわけだが、それ以上に地獄ではないか〉と物思いにふけている。
〈よく従軍慰安婦のバイショウのことが新聞に出たりしているが、あれは体験のない人にはわからないだろうが……
やはり“地獄”だったと思う。
だからバイショウは、すべきだろうナ。
……といつも思っている。〉