しかし、福井地裁は「原発の再稼動を許した結果、再び福島第一原発と同規模の事故が発生すれば、『社会の発展』以前に社会そのものが滅びかねない」とバッサリこれを退けて、「新規制基準は緩やかにすぎる、安全を保障しないので無効」と新規制基準そのものを否定した。原子力規制委の審査に合格した原発の再稼働を認めない、初めて司法判断を下したのだ。
高浜原発3、4号機の「運転禁止」仮処分命令は、単独の戦いとして勝ち取ったものではなく、はじめに福井地裁の「大飯原発3、4号機運転差し止め」判決があり、大津地裁での「半分勝利」を経て、「運転禁止」仮処分命令へと至った「併せ技の一本勝ち」だったと河合氏は振り返る。
また、大飯原発3、4号機の運転差し止めと高浜原発3、4号機の「運転禁止」仮処分命令、両者の決定を下した樋口英明判事について「特殊な裁判官」とする批判も、「的外れだ」と河合氏は述べる。実際の審理の場面で、樋口判事は河合氏側にも厳しく、当初は「何て偉そうな裁判官なんだ……」と思ったほど。
「それだけに、原発事故が発生しておらずに同様の訴訟を起こしていたら、樋口判事が担当だったとしても負けていただろう。樋口判事は裁判官として『特殊』なものでもなく、『福島第一原発事故で変わった』日本国民の典型」
この決定が覆らない限り、高浜原発は再稼動できない。原発のない社会の実現に、訴訟闘争の重要性がよくわかる。
一方で河合氏は、「裁判は脱原発のための闘い重要な一部というにすぎない。福島原発の事故を受けて国民が変わり、その世論を受けて、裁判官が変わった」と主張する。
今後、原発再稼働差し止め裁判と仮処分申し立ては、原子力規制委が設置許可した原発から順次全国的に広がる見通しだ。新規制基準を否定した今回の決定と、脱原発支持の強い民意が司法への強力な後押しとなるだろう。
(藤 マミ)
最終更新:2015.11.18 05:04