この時の壮絶な体験は後に『家路』という作品に描かれたり、同じく満州引き揚げ体験をもつ赤塚不二夫や森田拳次らとともに『ボクの満州』(亜紀書房)という一冊を上梓したりと、ちばは自らの心の傷をえぐり出してでも、日本人が絶対に忘れてはならない悲惨な戦争体験を伝え続けていくことになる。それは、戦争というものが本当に愚かなもので、人間が誰しも持つ「闇」「鬼」の面を否応なく引きずりだしてしまう醜いものだからだ。戦後70年、せっかく平和の時を築いてきたのにも関わらず、それをこんな簡単に壊してしまっていいものだろうか? 「戦争なんて怖くない」とのたまう人々は、実際に戦争で地獄を見たちばてつやの以下の言葉を読んで、それでも本当に戦争は愚かではないものなのか、怖くはないものなかのかどうか、もう一度よく考えてみてほしい。昨日まで仲の良かった隣人が、ある日を境に「鬼」になる。そんな状況をつくりだすのが「戦争」なのだ。
〈あんなに優しそうな人が、もうおなかがすいてしまう、もしくは自分の家族を守るためということになると鬼になってしまう、というようなことを何度か見てるんで。逆に鬼みたいな人も優しいところがあったりね。だから人間ってね、ちょっとしたことでね、がらっと(変わる)。だから色んな要素があるんですね、悪い部分、悪魔的な要素も、天使的な要素も、悪魔みたいなところも、みんな持ってる。でも、その人がどういう生き方をしてるか、環境によって神様みたいな人になったり、悪魔みたいになってしまったり、鬼になってしまったり、そういうようなことってよくある〉(前掲ラジオ番組より)
(新田 樹)
最終更新:2018.10.18 04:43