鈴木宣弘『食の戦争 米国の罠に落ちる日本』(文藝春秋)
「『これでは農業総自由化と同じではないか』。環太平洋連携協定(TPP)の詳細な合意内容が明らかになるにつれて、生産現場には驚きと衝撃が走っている。あまりに広範囲に及ぶ関税撤廃や大幅な削減に伴い、日本農業がかつて経験したことのない危機的状況に陥りかねない」と憤りをあらわにするのは、日本農業新聞(2015年10月12日付)だ。
批判の矢は、TPPの大筋合意に喜ぶ安倍首相にも向けられている。
「安倍晋三首相のあまりに楽観視した発言に、生産現場で落胆が広がっている実態を重視すべきだ。大筋合意後の会見で重要5品目に関連して『関税撤廃の例外をしっかり確保できた』と強調したが、農業者は全く納得していない。生産現場から国会決議の“約束違反”の批判が出るのは当然ではないか。TPPはまさに『国のかたち』を変えかねない協定である」
「首相は9日の全閣僚で構成するTPP総合対策本部初会合で『守る農業から攻めの農業に転換し、意欲ある生産者が安心して再生産に取り組める、若い人が夢を持てるものにしていく』と述べた。(略)先行き不安から新規投資ができず、中堅層ほど農業に見切りをつけた離農が増えかねない。首相が語る『夢』は『悪夢』に変わりかねない」
たしかに、この指摘は正しい。とくに深刻なのが、コメだ。コメは、関税は維持するものの、米国と豪州を対象に協定発効当初で計5万6千トン(13年目に計7万8400トン)の無関税枠を新設することとなった。すでに、日本は世界貿易機関(WTO)の協定に基づき、ミニマムアクセス(最低輸入量)として、年間77万トンのコメを無関税で輸入している。このうち、米国からの輸入量は約36万トンであり、今回の協議で、実質的な米国枠を6万トン増やすことにも合意しており、年約50万トンの米国産コメが入ってくることになる。
これは、日本の2015年産主食用コメ生産数量目標の約1ヶ月分にあたる。農家が危機感を感じるのは無理もない。
しかも、アメリカのコメは国からの圧倒的なバックアップを受けているのだ。