「積極的平和主義」を誤用・悪用し続ける安倍首相(首相官邸HPより)
安倍晋三首相が繰り返し使いつづけている「積極的平和主義」という言葉がある。先日の戦後70年談話でも〈「積極的平和主義」の旗を高く掲げ、世界の平和と繁栄にこれまで以上に貢献してまいります〉と述べたが、いま、この言葉の“産みの親”が安倍首相に「中身が違う」「盗用だ」と怒りを露わにしている。
「おそらく安倍首相の言う『積極的平和主義』は日米の軍事的な同盟をベースとしており、日本が米国の戦争を一緒に戦うことになる。私の『積極的平和』と中身は違う」(東京新聞、8月20日付)
「(安倍首相は)私の言葉を盗んで正反対の戦争準備をしている」(沖縄タイムス、8月22日付)
こう発言しているのは、今月20日に来日したノルウェーのヨハン・ガルトゥング博士だ。ガルトゥング博士は“平和学の父”とも呼ばれる著名な学者で、今回の来日を企画した映画配給会社「ユナイテッドピープル」の社長・関根健次氏のブログ記事によると、来日前には〈私が1958年に考えだした「積極的平和(ポジティブピース)」の盗用で、本来の意味とは真逆だ〉と関根氏とのSkypeで語ったという。
このようにガルトゥング博士が反論するのも当然で、じつは安倍首相の言う「積極的平和主義」と、平和学における「積極的平和」とは、まったく違うものだ。
まず、ガルトゥング博士が提唱した「積極的平和」とは、〈単に戦争がない状態を消極的平和と呼び、社会正義が果たされて飢餓や貧困もなくなった状態を積極的平和と呼んだ〉ことから生まれた概念だ(児玉克哉、中西久枝、佐藤安信『はじめて出会う平和学』有斐閣)。
そもそもガルトゥング博士は、1950年代後半に20代という若さで国際平和研究所を設立。当時、平和研究の分野では、おもにアメリカが冷戦状況から米ソ核戦争を回避させる研究が進んでいたが、ガルトゥング博士は〈北欧から見れば、むしろ、五〇年代、六〇年代に生まれてきたアジア・アフリカの新しい国の貧困という惨憺たる状態を生み出す国際構造を研究しない限り、国際平和を研究したことにならない〉と考え、〈まったく違ったスタンスで、研究をはじめ〉たという(高柳先男『戦争を知るための平和学入門』筑摩書房)。