たとえばこんなケース。あなたが飲み会で偶然知り合い、携帯やメールで何度か連絡を取り合った男がオレオレ詐欺グループにかかわる者だったとする。捜査を開始した警察は、詐欺グループの首謀者を突き止めるためと称し、男と連絡を取り合った者も盗聴捜査の対象に加える。当然、あなたも例外ではない。
あるいは、児童ポルノがらみの犯罪もそうだ。そもそも児童ポルノ禁止法は定義が極めて曖昧な上、今年7月からは児童ポルノを所持しているだけの「単純所持」も処罰対象となる。たとえば、あなたの友人がパソコン内に偶然保存していた画像や動画を警察が児童ポルノだと断じ、捜査を開始した場合、警察はこれを「製造」「提供」した者の洗い出しを進める。当然、携帯電話などでやりとりしていた者も対象となり、盗聴=通信傍受のターゲットとされる──。
おそろしいのは、こうした捜査を受けても、当人は盗聴=通信傍受されたことに気づかぬ可能性が高いことだ。最終的に逮捕されたり、家宅捜索などを受ければ、否が応でも捜査対象となったことは分かる。だが、関係者として密かに盗聴されただけなら基本的に知る術はない。
だが、これらの想定はまだマシなケースかもしれない。いずれも一応は「犯罪捜査」が建前となっているからだ。警察組織の取材を続け、盗聴法強化に警鐘を鳴らすジャーナリストの青木理氏はこう語る。
「実をいうと警察の公安部門は、盗聴法の施行以前から組織的盗聴を極秘に行ってきました。もちろん明白な違法行為ですが、たとえば神奈川県警の公安部門は1986年、東京・町田市にある共産党幹部宅の固定電話を違法盗聴していたことが発覚しています」
この事件は当時、東京地検特捜部が捜査に乗り出す一大騒動に発展したが、最終的には検察と警察が手打ちして捜査は終結。盗聴の実行犯である警察官らは刑事責任すら問われず、いまにいたるも警察は「違法盗聴などをしたことはない」と強弁している。青木氏が続ける。
「警察組織の中でも公安部門は、彼らが『危険だ』と判断した団体や個人を徹底監視し、その情報を収集することを目的としていますから、盗聴法の強化は格好の武器になりかねません」