盗聴法改正案の問題点について語る山下幸夫弁護士(YouTube「videonewscom」より)
大半の憲法学者が「違憲」と断じ、学生団体がデモを行うなど、いま最も注目を集める法案といえば安保関連法案だろう。しかし、その陰である危うい法案が国会に上程中なのをご存知だろうか。
それはずばり、「盗聴法(通信傍受法)」の改正案である。マスメディアが大々的には報じないからピンとこない方も多いだろうが、今年3月に閣議決定され、与党は今国会での成立を目指している。
この改正案、色々な意味で「ヤバい」。通信の秘密を保障した憲法に違反するという猛反対の声を押し切り、1999年に成立した現行の盗聴法。「犯罪捜査の証拠を得る手段」として通信傍受の必要性を認めたものだが、今回の改正案では警察の権限が際限なく肥大しており、一般市民の生活が脅かされかねないのだ。
最も顕著なのは盗聴捜査の対象犯罪だろう。現行法は対象が組織的殺人、薬物、銃器、集団密航の4つに限られ、同法に基づく実際の盗聴捜査も限定的だった。しかし、改正案はこれを大幅拡大し、詐欺、窃盗、強盗、傷害、果ては児童ポルノなどにまで広げようとしている。一応「組織性が疑われること」が条件とはされているものの、これを判断するのは警察だ。ちなみに窃盗は、年間に発生する全刑法犯の7割を占める。つまり、警察が「組織性あり」と断ずれば、ありとあらゆる犯罪で盗聴捜査が行える。
しかも改正案は、盗聴捜査のハードルをさらに下げている。従来、盗聴時には通信事業者の立ち会いが必要とされ、盗聴場所も事業者の施設内とされていた。ところが改正案は、一定の条件を満たせば事業者の立ち会いを不要とし、将来的には警察施設内での盗聴も想定している。第三者がチェックできず、密室での「やりたい放題」が可能となる。
■盗聴捜査の日常化──誰もがターゲットとなりうる怖さ
「自分は犯罪なんて手を染めたことがないから大丈夫」。そう思うかもしれないが、甘い。日弁連で刑事法制委員会事務局長をつとめ、今回の改正案にも詳しい山下幸夫弁護士は次のように話す。
「今回の改正で盗聴のハードルは下がり、今後は盗聴捜査が日常化していくでしょう。通信を傍受されるのはターゲットの人間だけではなく、通話相手も含まれるので、第三者の人間も対象になる。一般市民であっても、携帯電話などでの通話が捜査で盗み聞きされる可能性は十分にあります」