まずはこんな例について、本書から紹介しよう。昨年、安倍政権が閣議決定した集団的自衛権の行使容認。2014年の4月から5月にかけて、大手マスメディアが世論調査でその是非について集計したところ、なんと、各社ごとで真逆の結果がでたのだ。
たとえば「反対」に注目すると、朝日新聞(56%)、日経新聞・テレビ東京合同(49%)、共同通信(52.1%)はいずれも50%前後を占めていた一方、読売新聞では「使えるようにすべきではない」が25.5%、産経新聞・FNN合同調査では「使えるようにする必要はない」が25%と、驚くほど対照的な数字が現れていたのである。読売と産経はこの自社調査の結果を踏まえて一面をこんな見出しで飾った。
〈集団的自衛権71%容認 本社世論調査 「限定」支持は63%〉(読売新聞14年5月12日付朝刊)
〈行使容認七割超〉(産経新聞4月29日朝刊)
どういうことか? 著者は、この正反対の結果は「回答の選択肢」による影響が大きいと分析する。
朝日調査の選択肢は「行使できない立場を維持する」「行使できるようにする」の二種類だった。日経・テレ東合同、共同通信調査の選択肢もまた「賛成」か「反対」かの二者択一。他方、読売と産経調査では、若干文言は異なるものの「全面的に使えるようにすべきだ」「必要最小限の範囲で使えるようにすべきだ」「使えるようにすべきでない」の3つから選ぶかたちになっていたのである。
一見してわかるように「読売と産経は賛成に関する選択肢が2つ、反対が1つと、バランス的に賛成方向が多い」。しかも、賛成と反対の“間”の選択肢のことを「中間的選択肢」と呼ぶが、NHK放送文化研究所の実験調査によれば、“普段あまり考えないようなこと”を質問された場合、人々は中間的選択肢を選ぶ傾向が強くなるという。
事実、前述した読売と産経の世論調査における「賛成」の内訳は、こうなっていた。
「全面的に使えるようにすべきだ」=7.3%(読売)、8%(産経)
「必要最小限度で使えるようにすべきだ」=64.1%(読売)、63%(産経)
ようするに、読売と産経の調査では、集団的自衛権行使を「必要最小限の範囲で」認めるという“賛成寄りの中間選択肢”を設けたことで、ここに答えを集中させたのである。改憲派で安倍政権の御用メディアであるこの2社は、意図的にこうした選択肢を用意し、あたかも「賛成」が7割超を占めたかのような見出しをつけ、一面トップで報じたわけだ。明らかな世論操作と言うべきだろう。しかも、読売と産経のペテンはこれだけではない。