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柔道の授業で死亡、組体操で脊椎損傷…事故頻発の背景に文科省の「正義」押しつけ教育

 内田氏の分析によれば、10段ピラミッド(約151人)で、最も負担の大きい生徒では約200キロもの負荷がかかることになる。これは「歪みのない基本形にしたがって算出したものであり、ピラミッドが歪みをもった瞬間」にはその値はもっと大きくなるという。仲間と一緒にひとつのことをやり遂げたくなる(やり遂げさせたくなる)気持ちも分かるが、誰か一人でもバランスを崩せば、その仲間たち全員がとてつもない危機に晒されるのである。

 厚生労働省「労働安全衛生規則」を引っ張り出しているのが切実だ。2メートル以上の場所で労働作業を行う場合には、安全確保のために「囲い、手すり、覆い等」を設ける規則が定められている。大人に対してこのような規則が強固に設けられているというのに、子どもの組体操は、体一つで自分の背丈の数倍もの高さに立たされるのである。組体操の成功法を指南する書籍を出している関西体育授業研究会の事務局担当者は、あるウェブマガジンのインタビューに「何度も失敗を重ねながら、何度も練習を積んでいくからこそ、その信頼がうまれていくのです。保護者たちも、子どもたちのその努力を知っているからこそ、感動してくれるのです。そして、私たち教員も、その過程を知っているからこそ、ピラミッドが完成したとき目に涙を浮かべるのです」と、事故のリスクを感動で乗り越えるのが組体操である、とその狙いを明かしてしまっている。

 本書では、柔道事故がこれまでいかに放置されていたか、精神論で片付けられてきたかについても細かに記されている。「しごき」「特訓」という名の元に、大きな身体の先生が、小さな子供を平然と投げ飛ばしてきた柔道の世界。たとえ「具合が悪い、頭痛がする」と申し出ても「気合が足りない」で済まされてしまい、不慮の事故をいたずらに積み重ねてきたのだ。

 先日、残念ながら福岡県の中学校で柔道による死亡事故が起きてしまったが、09年に4件、10年に7 件、11年に3件と起きていた柔道による死亡事故は、12年から14年まで1件も起きていなかった。著者は直接には記さないが、この柔道事故の急速な改善は、内田氏による警鐘の成果である。死亡事故を集積し発表したことが、柔道界が方針を改めることにつながった。06年版の全柔連『柔道の安全指導』では重大事故について「原因はほとんどが不可抗力的なもの」としていたが、11年版では「事故要因の分析は、指導者や管理者が安全対策を講じるうえで欠かせない」と改まった。確かな数値を提示されたことで、闇雲な気合を見直さなければならなくなった。

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