「仕事の内容は正社員とほぼ変わらない。むしろ、入社して数年の社員よりも責任の思い仕事をまかされることさえある。残業は断れない。それでも正社員と比べると、年収は半分以下。昇給は望めず。ボーナスはもちろん交通費さえ支給されない」
たまりかねて、正社員になる道はないかと上司に聞くと、「正社員は入社試験を受けて入ってきた。(略)しばらくここで働いているから正社員になれるなんて、不公平ですよ」と信じがたい言葉を投げつけられたという。その後、別の貿易事務の仕事に就いたが、ここも3カ月ごとの契約だった。
「ほかに選択肢もないし、自分よりしんどい人と比べて気持ちを落ち着かせるしかないんです。その先に何か希望があれば、つらくても頑張っていけるんですけど。どんなに理不尽な条件でも、生きるためには黙って受け入れるしかない。この国は結局、そういう我慢強い女性たちが支えているんですよ」
これが貧困のひとつの実態だ。高学歴で一部上場企業就職というキャリアがある女性でも、ひとたびレールから外れれば貧困はすぐそこだ。晴子さんにしても決して好んで派遣という業態についているのではない。仕方なく、そこに甘んじるしか仕事が、生活する手段がないのだ。
もう1人、4年制大学を卒業した24歳の愛さん(仮名)も正社員を希望しながら派遣社員とした働く女性だ。幼いころに両親は離婚したが、近くに祖父母も健在で、貧しいながらも母子仲睦まじく、高校の成績も優秀だった。大学へは学校の奨学金と社会福祉協議会の教育支援を借りて進学した。バイトをしながらも、勉学にも励んだという愛さん。しかし、卒業後は正社員を希望するもリーマンショック後の不景気もあり叶わず、東京の観光名所のインフォメーション業務の派遣社員となる。やりがいはあった。でも、収入は手取りで月14万円。しかも2年間正社員と同様に働いたにもかかわらず、昇給はたった1円、ボーナスもなし。正社員への道筋もなく、この収入や将来の見通しでは生活がもたないため辞めざるを得なくなったという。
「新人研修も担当していたが、入ってきたばかりの新人と10円しか変わらない待遇に、本当に悲しいきもちになった」
何とも身につまされるエピソードだ。一生懸命働いても、派遣というだけで昇給も賞与もキャリアも詰めない。愛さんのケースだけでなく、多くの派遣労働者たちが口にするのは、不安定な身分と給与、職場に蔓延する「社員になどしない」「代わりはいくらでもいる」という空気。それ以上に働いても何のキャリアにもならないという絶望感だ。
大学を卒業しても貧困から逃れられないとなれば、他は推して知るべしだろう。そして結婚もできず50代、60代となれば派遣すら見つけるのも難しい。もちろんキャリアもないシングルマザーも同様だ。多くが希望する正社員などは夢のまた夢。にもかかわらず、安倍首相は派遣労働をまるで素敵な業態かのような妄言を振りまいているのだ。