後藤さんの妻は、夫が人質となった直後から「イスラム国」からのメールを受け取っており、救出のためのやり取りをしていたのは既に明らかにされているが、その過程で政府へ直接交渉、いわばSOSを発していたにも関わらず、政府はこれを拒否したということだ。
この『報ステ』のコメントは、「交渉過程をよく知る人物」としているものの、実際は妻本人からの“反論”と考えられる。というのも、『報ステ』は翌日にも「後藤さんへのメッセージ」という特集を組んだが、その際、後藤さんの赤坂の事務所での撮影を行っている。事務所の撮影ができたということは、『報ステ』が後藤さんの妻から許可をもらっているということで、だとしたら、反論コメントについても『報ステ』は後藤さんの妻にも事実関係を確認していると考えるべきだろう。
実は今回、検証委員会は後藤さんの妻から直接話を聞こうともしなかったことも明らかになっている。にもかかわらず、菅官房長官はその事実さえ隠蔽し、会見でデマを垂れ流したのである。
まさに、圧力とデマで情報を操作する安倍政権らしいやり方だが、さらに問題なのは、こうした菅官房長官、政府の卑劣な行為を、ほとんどのメディアが報じないことだろう。
それは、後藤さんの妻への非協力姿勢や責任転換という事実だけではない。
今回の報告書には、ほかにも、「イスラム国」へのメッセージが日本語だけであったことや、常岡浩介氏や中田考氏らが救出に動こうとしたにもかかわらず途中で妨害したことなど、書かれていない日本政府の失態がたくさんある。また、そもそも今回の報告書は有識者会議の報告書という体裁をとっているが、実際に検証しているのは政府という根本的な欠陥もある。
だが、こうした事実を指摘したテレビ番組は、先の『報ステ』以外では『NEWS23』『報道特集』『サンデーモーニング』というTBSの3つの番組くらいだった。
安倍政権はもはや、どんな失政を犯しても頬被りして逃げ切れる体制を築き上げた、といっていいかもしれない。
(伊勢崎馨)
最終更新:2015.05.25 07:04