映画では下着姿で縛られるという際どいシーンが登場する松。松尾は自身が脚本を手がけた『東京タワー〜オカンとボクと、時々、オトン〜』(07年)を観て、「(松が)すごく良かった記憶があったんです」と語り、その魅力をこのように言葉にしている。
「松さんは女優として、とてもフラットに振る舞う才能がある」「松さんのパーソナリティ自体にフラットな魅力があるんです。女優としてのエゴイスティックな面が一切ない。役作りのために部屋に籠もったりせず、衣装合わせとかでもちゃっちゃか決めていく。性格なんでしょうね。お父さんである松本幸四郎さんもせっかちらしいですよ(笑)」
二階堂と松に共通する、飾らない人柄と潔さ。ここから松尾が求める女優像の片鱗が窺える。また、『あまちゃん』で共演した能年玲奈については、「アイドル性の高さを感じました。スタアのオーラではない、アイドルの空気。演技に入るとなぜ瞳がうるうるしているのか、それがずっと謎でしたね」と松尾。
ベテランから新人まで、錚々たる女優と仕事をともにしてきた松尾だが、そんななかでも松尾がもっとも「特別な女優」と名を挙げるのは、意外にも(!?)片桐はいりである。
「自分の面白い顔を知悉しているところですね。ただ面白い顔を作るんではなくて、どういう場面で効果的なのかということを知っていて、それが出来るということ。片桐さんは絶対外国でもウケますよ」
効果的に面白い顔をつくれるか──いかにも松尾らしい視点であるが、そんな片桐を想定して脚本をつくったのが、01年に初演した『マシーン日記』。この舞台のなかで片桐はセックスマシーン(!)の役を演じている。
「片桐はいりはセックスマシーンの役をやったことがないだろう、と考えて。そこに驚きを作っていく。これは作劇上、演出上でも言えますが、興行師として驚きを与えたいという気持ちが働くんですよ」
驚きを与えるという意味では、同じように舞台『ふくすけ』(12年)で“清純派”イメージの強かった多部未華子にホテトル嬢の役を当てた。そのときのことを振り返って松尾は「見事に受けて立ってくれましたね」と多部を称賛している。