さらに、従業員は「動くマネキン」。自分の着ている服は「その店舗で」「その日に」販売しているものでなくてはならず、自腹購入を迫られるのだ。
「従業員が衣服を購入する場合には定価の三割引になる。だが、それなら価格は週末セールの割引とほとんど変わりない。頻繁にシフトに入っていたAさんは三着を着回すことにし、計一万円ほど購入した」(同書より)
シーズンごとに新たに購入せざるをえず、アルバイトで稼いだはずのお金がバイト先の自腹購入に消えてしまう。同様に自腹購入を迫られるのは大手コンビニだ。お中元や各種催事商品には、学生アルバイトを含めて個人ごとにノルマがある。
「アルバイト一人一人に対して、クリスマスはケーキやチキンなどを三件、お中元は三件、恵方巻き関連商品は五件、土用の丑の日に千円ほどのうな重を三件、といった具合だ。家に小さい子どもがいるわけでもないのに、ひな祭りやこどもの日の商品を買うようにも勧められた。おでんの販売を開始する九月は、おでんの具の予約を一〇〇個取るノルマが与えられた(略)出費は七千円だ。ひたすら親戚に電話をかけて買わせようとしたが、結局それでも売り切れなかった分は数回分の夕食になった」(同書より)
大手コンビニにとってはアルバイトも自社商品の「客」なのだ。
「おせち料理は一つ約二万円もする。お歳暮やお中元は一つ三千円程度から五千円以上のものまであり、それらをアルバイト一人当たり三つのノルマで買わせれば、一人一万円の売上げを確保できる。また別のコンビニの学生アルバイトによれば、土用の丑の日のうな重の販売ノルマが課せられるのだが、わざわざコンビニでうな重を購入する客はほとんどおらず、ほぼすべてのうな重を従業員の購入によって消費しているという」(同書より)
高校生のアルバイトに毎月数万円もの「買い取り」を命じていた大手ジーンズショップもあるほどだ。
しかも、ブラックバイトだとわかっても、なかなか抜け出さないような「過剰な組み込み」にがんじがらめだ。「今日、来れないか」というLINEを通じた呼び出しなどの連絡は24時間休みがないうえに、長時間労働に深夜勤務で、考える、周囲に相談する時間を与えない。大学生には「学生は高校生まで」「学生気分を捨てろ!」と要求するのだ。
「勤務時間外も職場の一員として常に臨戦態勢にあり、シフトも職場に合わせて決定され、長時間の労働があり、時には多店舗を任される。これらは、学生のアルバイトがその会社にとって重要だというだけで足りず、必要不可欠な戦力になっているがゆえである」(同書より)