「大声でポジティブな言葉を発すると気持ちがいいですし、アドレナリンがたくさん出て“今日もがんばるぞ!”って気になれる。不思議ですけど、朝礼のおかげで元気が出るんです」
月曜の早朝に街を歩くと、社屋とおぼしき建物の屋上で社員らが大声で何か叫んでいるような会社をたまに見かける。ハタから見ていて苦行でしかないと思っていたが本人たちは嬉々としてこれに臨んでいたとは、恐るべしだ。
一方、洗脳する側も実際のところは自分で自分に対して“自己洗脳”を行っているのではないかという疑惑もある(「木嶋佳苗が自己洗脳で保ち続ける見せつけたい「自己像」/高橋ユキ」)。2009年に発生したいわゆる「首都圏連続不審死事件」で殺人などの罪に問われ、一審二審の死刑を不服とし、現在最高裁に上告中の木嶋佳苗被告(40)は、法廷で自信満々の態度を崩すことはなかった。
事件発生当時からこの事件は木嶋被告のぽっちゃりとした容姿や、それに反して“男性を何人も手玉に取った”ということが大々的に報じられた。公判も抜群の注目度の高さだったが、「一審では午前と午後で服装を替え、刑事裁判では非常に珍しい“お色直し”を行った」ほか「堂々と法廷に現れ、時に傍聴席を見回す余裕も」あった。
「刑事裁判の被告人の多くは、ずっと下を向いてうなだれていたり、傍聴席を見回すことなどできずに、まっすぐ前を見据えて固まっている。彼女には、そうした素振りは一切見られなかった。
大きな連続殺人事件の被疑者として、そして被告人として注目を集めていることをポジティブに受け止めているようにすら見えてしまう」
自信たっぷりの振る舞いは、いつしか第三者にも伝染する。公判には次第に“佳苗ギャル”と呼ばれる女性たちが通い詰めるようになった。幾人もの男性が彼女に惹かれていった理由を探しながら傍聴するうちに、彼女の魅力に気づいていくのである。佳苗ギャルの1人はこう語る。
「目を閉じて彼女の声を聞いていると、綺麗な女性が話しているようにしか聞こえない。被害者とのセックス内容を赤裸々に証言しているのですが、“ドギツイ”性行為も彼女の話しぶりによって、上品なエロスを感じてしまうほど」
木嶋と同様の“自己洗脳”は、おそらく冒頭に挙げたオウム真理教の麻原も、行っていたのではないだろうか。荒唐無稽な理屈を通すには自分で自分に暗示をかけなければ、やっていけないだろう。
(高橋ユキ)
最終更新:2017.12.19 10:21