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公害か自己暗示か…携帯基地局に苛まれる「電磁波過敏症」の孤独

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『ルポ 最後の公害、電磁波に苦しむ人々』(花伝社)

 携帯電話各社のCMでは、とにかく「つながりやすさ」が繰り返しアピールされる。他社と比較し、自社が最もつながりやすいとアピールする比較広告も目立つ。通話料金は契約プランによって煩雑なため、端的に「一番安い」と打ち出すことが難しい。一方で「つながりやすさ」は明示しやすいのだ。

「つながりやすさ」を強めるためには、通信エリアの拡大が至上命題となる。携帯基地局を方々へ設置していくのが急務だ。基地局が張り巡らされることで、例えば山岳事故の際に、携帯を頼りに救出されるケースが生まれたりもする。「圏外」が少しでも狭まることは、誰にとっても望むべきことだと疑わない。

 黒薮哲哉『ルポ 最後の公害、電磁波に苦しむ人々』(花伝社)を開き、電磁波過敏症を患った人たちが、必死に圏外を求めて居住場所を移し続けている事例を知ると少なくとも「誰にとっても望むべき」ではないことに気付かされる。電磁波過敏症とは、微弱な電磁波を浴びることで、頭痛、めまい、吐き気などが生じる症状のことで、癌や流産など、様々な健康被害との関連性も取り沙汰されてきた。とりわけ携帯基地局の近くに住む人たちにこの症状が数多く生じている。しかしながらWHOの発表によれば、「これまで20 年以上にわたって多数の研究」が行われてきたが、「今日まで、携帯電話使用を原因とするいかなる健康影響も確立されていません」(WHOファクトシート193)という。

 携帯基地局から発せられるマイクロ波については「WHOの外部組織であるIARC(国際がん研究機関)がマイクロ波に発癌性がある可能性を2011年に認定」した事実や、ミナス・メソディスト大学のドーデ教授の調査として「携帯基地局の周辺に住んでいる住民の癌による死亡率が、それ以外の地域の住民の癌による死亡率に比べて高い傾向にある」などの調査結果が多く出されているものの、あくまでも「可能性」や「傾向」に過ぎず、直接的な関連性としては導き出されていない。

 医学的根拠が無いとはいえ、実際にどのような症状を抱えている方がいるのかを知ることが必要だろう。本書の著者が取材した家族は、夫婦と子ども2人、4人家族全員が電磁波過敏症を患った。住居近くに基地局が建った後、たちまち4人とも体調が優れなくなり、「圏外」を求め山間部に越すことに。しかし、越して来た土地にも、圏外を無くそうとエリア拡大を続ける携帯会社の手が伸びてくる。やがて越した家の近くにも基地局ができてしまう。

 設置後、家族それぞれが、眼痛、嘔吐、頭痛、鼻血、不整脈などの症状に悩まされるようになる。自宅でパン工房を開いて生計を立てていた一家は、症状の悪化に伴い、自宅から3キロ離れた奥地に別の家を借り、パンを作るときだけ自宅に戻るという生活を余儀なくされる。その後、同じ基地局にFOMAアンテナが増設されたことをきっかけに症状がますます悪化した一家は、更なる山間部に木造屋を建てることになった……このようにして、凄まじい勢いで無くなる「圏外」を追い求めて、流浪を続けたのである。

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