本坊は「洋和ワークス」(作中の仮名)という建設関連の人材派遣会社に登録し、いろいろな現場で作業員として働くこととなるのだが、『プロレタリア芸人』ではその過酷な労働の実態が詳らかにされている。
たとえば、建築物の解体工事の現場。本坊のような派遣作業員は、解体工が天井からどんどん建物を崩していくなか、その残骸を拾い集めていくのだが、作業員を悩ませるのが石膏ボードや断熱材だ。
「石膏ボードの粉塵や断熱材が宙を舞います。断熱材にはガラスの粒子があり、これが体に突き刺さり、痒くて痒くて発狂しそうになります」
「解体の翌日には目から涙と石膏が出てきます。自分の体が心配です」
明らかに人体に悪影響があるとしか思えない状況にさらされる作業員。ちなみに、突き刺さったガラスを取り除くには「熱い風呂に浸かり毛穴が開くのを待つのが一番」だという。
また「壁に埋め込まれた鉄枠を取り外す」という解体現場では、シャレにならないようなことも起きている。暗い部屋のなかで大きなハンマーで壁を崩した本坊は、壊したコンクリ片を抱えて、部屋の外に出た。すると、別の職人が「レベル1! レベル1!」と叫んで、本坊にビニールシートをかけたのだ。
一体何があったのか? 実は本坊が崩したコンクリ片はアスベストを含んでおり、しかもその危険性は、発塵性がもっとも高い「レベル1」だったのだ。
かつては建設資材として広く使われていたアスベストだが、石綿繊維を吸入することで肺がんや中皮腫を引き起こすということで、現在は全面的に使用が禁止されている。
そんなアスベストにさらされる危険性があることを知らされずに現場に出向いた本坊は、「労災病院で調べてもらって、場合によっては大手ゼネコンにひと泡ふかせてやる」と騒ぎ立てようとするも、現場にいた3人の作業員は諦めムード。上司も「一日くらいなら大丈夫」と話し、レベル1のアスベストに少しさらされたくらいで文句を言うなという態度だった。そのうえ、作業員の1人は、
「体に害がないのなら、下手に騒ぐのは感心しない。僕だったらひとつでも恩を売っといて、楽な現場を回してもらう方がいい」
と、この状況を完全に受け入れていたという。本坊は「染み付いた奴隷の論理をここに見た」と記しているが、もはや、日本の建設現場では作業員の奴隷化が当たり前の状況なのか? ちなみにこのとき、本坊は結局病院には行かなかったという。