近藤氏は14年3月末には慶応大医学部を定年退職し、13年に渋谷に開いた「セカンドオピニオン外来」での診察が現在の活動の中心になっている。そのセカンドオピニオン外来について「訪ねてくる患者さんの95%以上は不合理な治療を受けており、私は“いま受けている治療はやめたほうがいいですよ”と提案している。で、“ほっとした”“救われた”とすごく明るい顔になって帰っていく」(近藤氏/「週刊新潮」14年4月3日号)と胸をはるが、診察料は30分3万円プラス消費税。しかも、ほとんどの場合は「放置しなさい」というだけで、アフターケアはほとんどないという。そのため、一部の患者からは不満の声もあがっている。
科学的な理論ではなく考え方にすぎない「がんもどき」理論を拝聴するだけで、バカ高い診察料……こうしてみると、近藤氏は“がん放置教”という宗教を広めているようにも見えてくる。
しかし、一方の医療界が“がん診療ワールド”にしがみつき、利権構造を守ることに終始していたのもまた事実だ。
「彼の言っていることは、一部の“がん難民”、つまり納得できる治療や医師を求めて彷徨う人々や、残された遺族にとっては胸にストンと落ちる。日本は医師不足で、がんの名医や専門医に皆が診てもらうことは到底できません。したがって“もっとやれることがある”あるいは“あったのではないか”と悔いる遺族やがん難民は数多い。そこへ行くと、“ほぼ何もしない方がいい”と訴える近藤さんの理論は、彼らには大きな“慰め”となるのです」(上昌広・東大医科学研究所特任教授/「週刊新潮」14年4月3日号)
また、一連の近藤批判の中には、明らかに不要な検査や抗がん剤の利権を守るために大学病院を頂点にした医局と製薬業界が組織的に近藤バッシングを仕掛けている気配もある。
そういう意味では、近藤氏が、この国のがん治療が患者不在の利権構造を浮き彫りにしたといってもいいだろう。ただ、これは食の安全論議や放射能汚染にも共通するが、長く続いているシステムや商品の危険性を指摘しようとする人たちは、それを阻む圧力の大きさゆえか、極端にふれてしまう傾向がある。その結果、既得権益を守ろうとする側から「科学的根拠がない」とトンデモ扱いされ、現実への影響力を失ってしまう。
利権にまみれた“がん診療ワールド”の垂れ流しでもなく、近藤理論の丸乗りでもない、科学的で客観的ながん治療への批判が登場することを願ってやまない。
(小石川シンイチ)
最終更新:2018.09.27 12:59