しかも、『殉愛』を読む限りでは、その後、彼女がたかじんと入籍するまで、イタリアに渡った形跡はない。そんなところからネットでは「重婚じゃないか」という疑惑まで噴出しているのだ。
ただ、これだけで重婚とするのは難しいだろう。イタリアには行っていなくても代理人を立てたのかもしれないし、イタリアは事実婚も多いため、法律上は籍を入れていなかった可能性もある。
しかし、少なくともたかじんとさくらさんが一時、不倫関係にあったということはいえそうだ。しかも、『殉愛』の記述が事実なら、さくらさんは結婚の事実をたかじんにも伏せ、騙していたことになる。『殉愛』から、たかじんとさくらさんがはじめて二人きりで会った11年12月30日の会話を引用しよう。
〈「イタリアには彼がいるの?」
「親しい男性はいます」
「恋人じゃないの?」
「違います」とさくらは答えた。
「でも、父は彼と結婚したらいいと言いました」
たかじんは少し驚いた顔をした。一年前、さくらの父がイタリアに来たときに、その彼を見ていたく気に入ったのは事実だ。また彼からはプロポーズもされていた。もっとも彼と結婚するイメージは湧いていなかった。〉
だが、不倫だったとしても、また仮に重婚だったとしても、筆者はそれが問題だとは思わない。問題なのは『殉愛』で、百田とさくら夫人がその事実を伏せていたことだ。ほんとうの愛を描いた“ノンフィクション”だというなら、イタリアで結婚していた彼女がたかじんに迫られ、そのことを打ち明けることができないままたかじんの食道ガンが発覚して、夫を捨てて彼を支えようと決意した事実をきちんと描けばよかったではないか。そのほうが、もっと読者の心を揺さぶることができただろう。
逆にいえば、それをしなかった、ということが、この本の真の目的を物語っているのではないか。娘や元マネージャーに対しては一方的な中傷を浴びせながら、もう一方の当事者であるさくらさんの都合の悪いことは事実をねじ曲げ、一切書かない。これは結局、遺産や利権争いで一方の当事者を利する目的で書かれたものだからではないのか。だとしたら、ノンフィクションでなく、謀略本だ。
以前、百田は、本サイトでも紹介したように、『SMAP×SMAP』(フジテレビ系)に出演した際、こう話したことがある。
「ノンフィクション作家は、うまいことウソ入れる。わたしも、ノンフィクション書くとき、平気でいっぱいウソ入れてます。ほんまにそのまま書いたら、おもろない」
今回もいっぱいウソが入ってるみたいだけど、全然おもろないよ、百田センセイ。
(酒井まど)
【リテラが追う!百田尚樹『殉愛』騒動シリーズはこちらから→(リンク)】
最終更新:2015.01.19 04:30