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ネット上の非難にアイドルたちは…朝井リョウが描くアイドルの本音

 ネット上に溢れかえる非難の言葉。実際、アニヲタとドルヲタは相性が悪いものだが、この場面などはまるで実際の事件を見ているかのようだ。しかし、もっと生々しいのは、握手会での描写である。主人公の愛子は古参ヲタから炎上騒動の話題を振られ、「元気づけてあげなね。こういうとき、支えになってあげられるのはメンバーしかいないんだから」と語られる。愛子は「ハイ」と神妙な面持ちで頷くものの、〈まるで先生のように話すこの人は、私たちのなんなのだろう〉と疑問に感じるのだ。……そのツッコミはごもっともだが、アイドルファンにとってはダメージが大きいシーンかもしれない。

 また、新曲を発表したときには、「イラネ」「売れなそう」という言葉とともに、握手券などのCD購入特典に対して数々の批判が投げかけられる。まだ高校生の愛子に込み上げるのは、持って行き場のない感情だ。

〈煽り耐性、スルースキル、それらの言葉は自分たちが小さなころにはこの世になかったのに、本当についさっき生まれたような新しい言葉なのに、その習性をあらかじめ持ち合わせていることを当然のように求められる〉

 こうした感情は、きっと現実のアイドルたちも抱えているものなのだろう。先日も、握手会で襲撃を受けたAKBの川栄李奈が、「テレビは出るのに、握手会は出ないのか?」「握手会が嫌なら辞めろ」とトークアプリ上で批判され、「あのさー握手会やれとかここに書かないでもらっていいですかー」と反論。彼女の気持ちを少しでも想像すれば当然の返答だと思うが、ファンのなかには「スルーしろよ」と投げかける者もいた。怒りを怒りとしてもってはいけない、発露できない──ネットという接点が生んだ現代アイドルたちの苦悩を、この小説はあぶり出しているかのようだ。

 そして、もっとも痛ましいのは、オーディション時から太ってしまったメンバー・足立真由への心ない書き込みだ。

〈完全終了のお知らせ〉〈【これはひどい】だちまゆ、オーディション時と別人になる【比較画像アリ】〉〈【超絶悲報】でぶまゆ、ひとりだけ違うデザインの水着を渡される〉

 無分別なバッシングにさらされた真由は、満足に食事も摂らず、ローカロリーの茎わかめを手放さない。それでもブログには、食べもしないドーナツを手にした写真とともに〈超絶悲報☆食欲の秋、到来ナリ〜〉と投稿する……。読んでいるだけで胸が詰まりそうになるが、この手のバッシングも、現実のアイドルたちが数多く経験しているもの。真由のように、現実のアイドルたちも懸命にふんばって耐えているのだろうが、本作で救われるのは、他メンバーが真由を気遣い、「真由が何かをサボったり、なまけてるからじゃないんだよ」と諭していること。現実のアイドルたちにも、このようなメンバーがいますようにと祈らずにはいられない場面だ。

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