『習近平は必ず金正恩を殺す』(講談社)
北朝鮮が突如、拉致被害者の再調査を表明したのは今年7月のこと。9月中旬には北朝鮮の特別調査委員会からの報告が行われるとされてきたが、しかし一転、年末まで大幅に遅れる可能性が出ている。今後の動向次第では日朝の外務省局長級協議開催も危ぶまれるが、今、最も気を揉んでいるのは安倍晋三首相ではないか。
もし拉致被害者が帰国すれば、「対話と圧力」を唱え続け「拉致問題は政治家としての原点」と主張してきた安倍首相の支持率アップは確実。首相としては喉から手がでるほど欲しい手柄だからだ。実際、安倍首相は調査再開時には自らの成果を強調し、胸を張った。
しかし今回の拉致問題進展は本当に安倍政権、そして安倍首相の努力の成果なのか。否、それはまったく違う。実際、安倍内閣はこの間、北朝鮮に何の働きかけもしていなかった。それまで安倍内閣で北とのパイプ役を担っていた飯島勲内閣官房参与も完全にカヤの外におかれていた。一連のアプローチはすべて、北朝鮮側からなされたものだ。
中国や朝鮮半島の取材を長年続けてきたジャーナリスト近藤大介の著作『習近平は必ず金正恩を殺す』(講談社)によれば、それは北朝鮮と中国の緊迫した関係にあるという。
「北朝鮮が突然、日本に秋波を送ってきた背景には、金正恩政権の抜き差しならない『お家事情』があった。それは一言でいえば、このまま座視していれば中国の習近平政権に『粛正』されてしまうという恐怖心である」
中国は長年、「ならず者国家」といわれる北朝鮮の“兄貴分”“後ろ盾”として庇護してきたが、その関係は今、激変しつつある。その大前提となっているのが「中国の国家主席である習近平は金正恩のことが大嫌い」という事実だ。
中国と北朝鮮の蜜月関係が崩れ始めたのは11年12月17日に金正日総書記が急死し、12年に金正恩が権力継承をしたことにある。そして同年、中国では習近平が中国共産党のトップになり、翌13年に国家主席になっている。しかし2つの隣国のトップは当初から噛み合なかった。
12年に新総書記に就任した習近平は儀礼的な「親書」を中央宣伝部長に持たせて北朝鮮に向かわせる予定だった。だがその矢先「平安北道・東倉里で北朝鮮が新たにミサイル事件準備か」との情報が入る。習近平はこれに激怒した。
「東倉里のミサイル発射場は中朝国境近くにあり、危険極まりなかった。それなのに、自分の時代が始まったとたんに、そんな物騒なことを遣り出すとは何事かというわけだった」