『性犯罪者の頭の中』(鈴木伸元/幻冬舎新書)
公園で女性に向かって陰茎を露出する輩に、電車内で何食わぬ顔をして女性の尻を触る輩、はたまたすれ違い様に胸を揉むような者もいれば、夜道、強姦に及ぶ者もいる。性犯罪者は様々なシーンで女性(ときに男性)を脅かす存在だ。警察庁が公開している「平成24年の犯罪情勢」によれば、一昨年の強姦の認知件数は1,240件と前年よりも55件増えており、強制わいせつの認知件数は7,263件と前年よりもなんと393件も増えている。強姦は平成23年まで減少傾向にあったが平成24年には増加、強制わいせつは平成22年から増加傾向にある。
そんな性犯罪者は、やることも気持ち悪ければ「外見も気持ち悪い人」と思われがちだが、実はそうではない。『性犯罪者の頭の中』(鈴木伸元/幻冬舎新書)に登場する「少女などに対して10件以上の性犯罪を繰り返していた」A受刑者、「強姦とのぞきで4年の懲役刑に服した」B元受刑者は、「いずれも結婚し、社会的にそれなりの地位となる職業についていた」という。A受刑者は「関東地方の中高一貫の某有名私立高校の出身」で首都圏の大学へ現役合格を果たしたのち、外資系企業で働いていた。B元受刑者は「地方で小さな会社を経営して」いる。
彼らはいずれも一般的な社会生活を送りながら、日々犯行に及んでいた。端から見れば、満ち足りていて犯罪など犯す必要は全くなさそうなのに、である。一体彼らはなぜ性犯罪を犯し続けてきたのか? A受刑者は作者への手紙の中でこう記していた。
「自分の身体と頭脳をフルに活用して犯行を計画していく過程は、ゲームに通ずる感覚かもしれません。あらゆる手掛かりを探り、様々なケースを推察・想定したり、環境を十分に把握してシミュレーションしたりして、自分の能力を使って犯行の絵を描いていくわけです」
抑えられない性衝動を抱えて突発的に犯行を犯すのではなく、綿密な計画を立て、実行に移していくのである。A受刑者の犯罪は「相手は、小学生、中学生、高校生、成人と幅広い。ときには、狙いをつけた女性を何か月もつけ回して犯行の機会をうかがったり、狙った女児の家のポストを物色して生活パターンを探ったり、犯行の様子をビデオに収めて被害者に対して『映像をばらすぞ』と言って脅したり」と、卑劣きわまりない。犯行への計画性が垣間見えるのは、先にA受刑者が記したように十分なシミュレーションを行ってきたためだろう。A受刑者はまた、綿密な計画を立てて実行していくプロセスを、手紙にこう書いている。
「ロールプレイングゲームにおいて情報収集をし、フラグを立てて、目的を攻略していく過程に似ているように思います。犯行がエスカレートしていくにつれて“経験値”が増え、自分が“レベルアップ”していく感覚がありました」
犯行を犯すたびに自らに自信を持ち、さらなる難関に挑戦していくさまはまさにゲーム感覚。A受刑者が最初に実行に移したのは、のぞきだった。そこから性犯罪の“経験値”を上げていき“スキルアップ”し、最終的には連続強姦を犯す“性犯罪者”になってしまったのだ。