いまだ謎の多い状況ながら、「機長犯人説」が有力視されつつある。最後は燃料切れによってインド洋に墜落したにせよ、目的地から大きく迂回したルートは明らかに意図的なものだからだ。疑われているのは730便に搭乗したザハリエ・アフマド・シャー機長。自宅のフライト・シュミレーターには問題の迂回ルートを試した履歴があったとも、現マレーシア政権に反発する政治信条の持ち主とも言われている。つまり機長自らがハイジャックを行い、マレーシア政府に何らかの要求を突きつけ、それが叶わなかったため乗客もろとも自爆したという可能性もあるのだ。
「MH370便の失踪は、まぎれもなく、『事故』ではなく『事件』である」
元JAL機長・杉江弘氏は、近著『マレーシア航空機はなぜ消えた』(講談社)のまとめにて、こう述べている。ボーイング747(いわゆるジャンボジェット)乗務時間世界一の著者ならでは、歴史上のあらゆる事故を参照しつつ、今回の現象を多角度から分析した著作である。全体としてはあくまで推論だと強調しつつ、これが「事件」である点についてはハッキリ言い切っているのが印象的だ。
「事件」であるならば「犯人」は誰か。本書でもやはり、ザハリエ機長の犯行ではないかという立場をとっている。仮にそれが真実としても、機体およびブラックボックスなど通信記録が発見されていない現状況では、犯行動機について知ることは出来ない。政治的ハイジャックの失敗による自爆だったのか、なんらかの機械トラブルによる事故だったのか、あるいはザハリエ機長による「発作的な自殺」という場合も考えられる。
「もちろん、政治的要因と心身の問題が重なったとも考えられる。私は状況から見て、ザハリエ機長がかなり衝動的(フライトの前日など)に犯行を決意したという可能性もけっして否定できないと思っている」(同書より)
これらの容疑に対し、シンガポールのニュースチャンネル「Channel News Asia」の特番『The Mystery of MH370』(7月13日放送)では、ザハリエ機長の姉がインタビュー出演。彼の無実を声高に訴えていた。そもそも4ヶ月を過ぎても事件概要が全く解明されていない、という状況こそが異様ではないか。その原因として、マレーシア政府による情報隠蔽を疑いたくもなってくる。杉江氏も、二転三転しながら無根拠な発言を繰り返すマレーシア政府の会見について「航空史上前例のない不誠実なメディア対応」と糾弾している。
現状では原因特定が出来ず、ましてや犯人は誰か、動機は何なのか、といった点について断定可能な状況ではない。とはいえ370便消失事件へのマレーシア政府の対応に「何かを隠している」と感じてしまうのは、オカルチックな妄想とも言い切れない面があるだろう。
17便の撃墜(?)事件とともに、一刻も早い公正な調査を望みたい。
(吉田悠軌)
最終更新:2018.10.18 05:00