「私の性被害が深刻化したのは、小学二年生のころだった。後にカウンセリングによってわかったことだが、そのころに『挿入』を伴う行為があり、そのことにショックを受けた私は、一年生のときまで、なんとか行けていた学校に、二年生になるととつぜん、行けなくなったのだ」
こうした父親による性的虐待は、小雪が初潮を迎える中学2年まで繰り返されたが、近くにいたはずの実母はまったく助けてくれることはなかったという。 幼稚園のころ我慢できなくなった小雪は母に話しかけたことがあったという。
「『お父さんが私のお尻に恥ずかしいことをするから、やめてって言ってほしい』
だが、母はまっすぐ鏡台に向かったまま、私の訴えに振り向きもしない。私は身じろぎもせず鏡をのぞき込むのだが、母は視線を合わせようとしなかった。
それは『反応しないという反応』だった。私は自分がとてもいけないこと、取り返しのつかないことを口にしてしまったと感じた」
漫画家の内田春菊が義父から性的虐待を受け、それを告白したことは有名だが、実の父親からという小雪の告白はさらに衝撃的だ。
しかも、小雪の父親は決して人格破綻者ではなく、経済的にも成功し、周囲からの人望も厚い人物だった。
「父はナレーション事務所を経営するかたわら、地元金沢の演劇活動の中心人物として活躍していた。(中略)父の奮闘ぶりは、たびたび地元紙にも取り上げられていたし、幼かった私は『東さん、東さん』と、みんなから頼りにされる父の姿を見て育った」
家庭でもそれは同様だった。家族はみんな仲がよく、父親は一人娘である小雪をかわいがり、こまめに世話をしてくれた。そんな一見、家庭的で理想的と思える男性が実娘を性的に虐待していたというのだ。
小雪のケースは、催眠療法でよみがえった記憶であるためやや曖昧な部分があるが、児童虐待の中でも、性的虐待はとりわけ外からは見えづらい。こういう表向き円満にみえる家庭で、父親による性的虐待が行われているケースは潜在的にかなりあるのではないか、と見られている。
小雪は現在、同性愛者というセクシュアリティをカミングアウトし、“結婚”したパートナーの女性と幸せな人生を歩んでいる。彼女の告白によって、児童への性的虐待への注目が集まり、少しでも救われる子どもたちがいれば幸いなのだが……。
(伊勢崎馨)
最終更新:2017.12.07 07:31