そこまで強力な神を祀るのだから、千家代々が担う出雲国造にも神さながらのパワーが必要とされた。82代出雲国造である千家尊統氏は、著書『出雲大社』(学生社)において「火継(ひつぎ)式」という儀式を紹介している。新しく出雲国造につくものは、まず細かい儀礼に則って、自分専用の神火をおこすという。
「その火で調理した斎食を新国造が食べることによって、始めて出雲国造となるのである。このことにより同時にまた、天穂日命それ自体になったというわけなのである。」(『出雲大社』より)
初代・出雲国造である天穂日命の神的パワーは、現役の84代・千家尊祐氏(千家国麿氏の父)まで絶えることなくバトンタッチされている、という考え方だ。千家国麿氏もゆくゆくは国造として、天穂日命の魂を受け継ぐ立場。出雲国造が、封印されし神を祀るため、自らの身体にも神を宿す役職だとすれば、次代宮司となった彼も大きな力をまとうことになる。
そして皇族である典子女王との婚約発表である。古代より畏れられた神・大国主と、それを祀るためこれまた強い力をもつ出雲国造家、そして天照大神の直系である天皇家。この三者が現代において再び結びつく、というのが今回の婚約において重要視すべきポイントだ。
「2000年を超える時を経て、今こうして、今日という日を迎えたということに、深いご縁を感じております」という千家国麿氏の発言に、多くの人は古代神話への憧憬のみを感じとっただろう。しかしこれは、古代におけるパワーバランスが復古するという意味もこめられているのではないか。だとすれば、そうとうに重みのこもった言葉なのである。
(吉田悠軌)
最終更新:2018.10.18 05:14