前述したように、実行委員会は「優勝パレード」の開催費用をクラウドファンディングで募っているのだが、なんと大阪府は、公立学校の教員や職員に対して寄付への協力を求める文書を出していたのである。
問題の文書は、実行委員会の事務局でもある大阪府府民文化総務課が、11月7日付で府立学校の校長・准校長に宛てた事務連絡。〈事務局の依頼を受けた府教育庁によって、同日中に教員向けポータルサイトに掲載された〉(朝日新聞10日付)というが、問題はその中身だ。
この文書では、パレードの警備費などで5億円の事業費が必要であり、クラウドファンディングの募集を開始していると説明し、〈教職員のみなさまへの周知についてご協力のほどお願いいたします〉と記載。そして、寄付額は〈3000円以上〉であり、〈お申込は、勤務時間外に行ってください〉と寄付への協力を呼びかけているのだ。
言っておくが、阪神もオリックスも、地元の人気プロ野球チームとはいえ、基本的には一私企業にすぎない。地元・大阪にだって、別の球団を応援していた人、それ以前にプロ野球に興味がない人が大勢いるはずだ。
そんなイベントに自治体である大阪府が「金を出せ」と寄付を呼びかける、というだけでも異常だが、もっとありえないのは、その対象が府立学校だったことだ。
いまさら言うまでもないが、公教育の現場である公立学校は数ある公的機関のなかでも、もっとも政治や利害から距離を置き、公正中立であらねばならない場所だ。だからこそ、戦後の日本では、学校を指導監督する部署として、教育委員会という首長から独立した機関が設けられ教育行政を担ってきた。
ところが、今回、その公教育の現場に対して、吉村知事率いる大阪府は「私企業の祝賀イベントに金を出すよう周知しろ」と呼びかけたのである。これは、教育の独立性を無視し、公正中立を無視し、政治からの独立を破壊する行為としか言いようがない。
しかし、大阪府政を牛耳る維新の体質を考えれば、さもありなんという話でもある。
維新は橋下徹・大阪府知事時代から教育の独立性を認めず、政治が教育を支配する体制づくりを強引に進めてきた。橋下氏が知事に就任した直後の2008年には、全国学力テストの成績公表を拒否した市町村の教育委員会を、「クソ教育委員会」と攻撃し、知事として全国で初めて市町村別データを強引に開示した。
2011〜2012年には、大阪府議会、市議会で「君が代」斉唱時の教職員に起立・斉唱を義務づける「国旗国歌条例」を成立させ、2013年には橋下氏と親しい関係にあった大阪府教育長がすべての府立高校に「口元チェック」を求める通知を出した。また、大阪市長に鞍替えした橋下氏は業務命令として市職員への「思想調査アンケート」をおこなったが、それを市立学校の教員にまで実施しようとして問題になっている(市教育委員会の反対で頓挫)。
極め付きは、教育委員会の独立性破壊の先鞭をつけたことだ。橋下氏や維新は首長から独立している教育委員会を目の敵にし、2011年には、知事が学校の教育目標を設定できるとする「教育基本条例案」を提出。翌2012年、教育目標について「知事は教育委員会と協議して作成する」という、教育委員会が反対しても知事の意向が優先されることを明文化した条例が制定された。そして、これが先駆けとなり、安倍政権が地方教育行政法を改正。それまでは教育委員会で選出されていた教育長と教育委員長を統合した新「教育長」を設け、首長が直接任免できる「政治の教育支配」体制を法整備してしまったのである。