しかも、東京地検特捜部は、2019年ごろに、一度、高橋治之の捜査を立ち上げようとして潰されたという話もある。司法担当記者が語る。
「捜査共助で、コモンズの存在を知った特捜部は、一部の検事がそこからコモンズの金の流れを追いはじめた。すると、2017年頃から、AOKIによるコモンズへの入金があることがわかった。五輪招致活動における買収工作は民間人の立場のため、日本では刑事責任を問えないが、AOKIの件はみなし公務員の組織委理事になった高橋がスポンサー選定の見返りに金を受け取ったもので、立件できると判断。当時の特捜部長・森本(宏)さんも乗り気だった。ところが、本格捜査を開始しようとしても、上が首を縦に振らず、結局、たなざらしになってしまった。今回の捜査は、このとき掴みながら捜査できなかったネタが出発点だったと言われている」
当時は、“安倍政権の番犬”として、甘利明・元経済再生相の口利き賄賂事件はじめ数々の政界汚職捜査をつぶしてきた黒川弘務・東京高検検事長(当時)が健在だった。高橋の捜査についても、黒川氏がストップをかけていた可能性があるが、いずれにしても、当時、検察内部がこうした状況にあったからこそ、安倍氏が高橋に「絶対に高橋さんは捕まらないようにします」と断言できたのだろう。
しかし、その後、周知のように“番犬”黒川検事長が賭け麻雀で失脚。検察に睨みを利かせてきた安倍政権、その流れをくむ菅政権も2021年に終焉を迎えた。そして、ちょうど同じ年、高橋容疑者の捜査を断念させられたときの特捜部長だった森本が、津地検の検事正から東京地検に次席検事として戻ってきた。
「森本さんは特捜部時代、カルロス・ゴーン事件やリニア中央新幹線談合、IR汚職など手がけてきた辣腕検事だから、五輪汚職を捜査できす、海外からもバカにされたのが相当な屈辱だったんじゃないか。それで、2021年の終わり頃から、ゴーン事件を一緒にやった現特捜部長の市川(宏)さんに命じて、リベンジを始めたということだろう」(前出・司法担当記者)
そして、安倍元首相が銃撃され、亡くなった翌月、特捜部は高橋逮捕に踏み切った。
そういう意味では、一連の五輪汚職捜査は、政権が捜査機関を私兵にして不正やり放題だったこの国の異常な独裁体制がようやく崩れはじめたことのあらわれかもしれない。
だが、油断してはならない。検察や警察が政界に弱い体質は変わってはいないし、少しでも圧力が加われば あっという間に捜査が頓挫する可能性もある。それはマスコミも同様だ。
今後の五輪汚職捜査を注視して見守る必要がある。
(編集部)
最終更新:2022.09.18 08:53